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董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!〜悪役令嬢、竹簡の予言で滅亡回避〜大悪党の董卓ファミリーが闇堕ちする前に、私が全部救います!  作者: 雨咲 しゆみ
第二章──毒の予言と夜宴の蝶

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#55 白檀

 ***


 馬車を離れた私たちは、李儒に先導されて一つ目の門を潜った。

 王の住まう正殿に続く道は長く、暗い。敷き詰められた白砂利の道だけが、真っ直ぐに闇の中を伸びている。


「ここも、もう王宮の中でしょう? どうしてこんなに暗いの?」

 お母さまが前を行く李儒に尋ねたが、「私にはわかりかねます」彼女は淡々とした口調でそう答えた。


 そのまま歩くと二つ目の門が見えてくる。

 僅かばかりの灯火に照らされた門に近づけば、門柱は所々塗装が剥がれて、どこか見窄らしいとさえ感じた。


「そういうこと……」

 それを見たお母さまは何か感じ取ったようだ。


 門には武装した衛兵が待機していたが、彼らの装備はあまり手入れされているようには見えなかった。それに、服装も少し乱れている。


 彼らは腕を組んだまま、李儒に簡単な確認をしただけで私たちを通した。身体検査のようなものは特にない。

 あまつさえ、通り過ぎ様に一人の衛兵があくびを打って、隣の兵士から小突かれている。


 とうに日が暮れたからということもあるだろう。

 しかし彼らの立ち振る舞いには、微塵の緊張も感じられない。

 皇帝自らの召集によって、中華全土から大勢の国賓が集うという今日この日にも関わらず、である。


「……だらしないわね」


 誰に向けるでもなく、お母さまがぽつりと言う。

 その言葉どおり、これなら前を歩く李儒の方が、よっぽど“兵士”として相応しいように思えた。


「……」


 前を歩く李儒は振り向かない。

 ただ私たちを置いていかないように、ゆっくりと歩を進める。

 

「さあ、見えました。あれが南宮……その正殿です」


 李儒が指差す方には、東西に一直線に伸びた巨大階段。その最上部はうっすらと明るい──正殿はその先だ。

 とは言っても、私の背丈ではその影の先端しか見えなかったけれど。

 視界の端まで続く階段は、ざっと見ても百段近くあるように思う。

 これを登るのは、体力のない私からすれば正直キツい。


(うわ……これ、登るの?)

(小紅さま。よかったですね、鍛えておいて)


 そんな文姫の言葉に励まされ、正殿へと続く階段に足をかける。


(もう少しですよ。頑張って)

(いいから、振り返らないで足元を見なさい。転んだら、音でバレちゃうかもしれないんだから)


 そんなやりとりをしながらお母さまたちに続く。

 徐々に、正殿があらわになる。


 満点の星空の下、堂々と(そび)え建った正殿は、先ほどまで見てきたどの建物とも全く“違う”。

 内外を照らすため無数に灯された油灯が目に痛い。


 並び立つ柱は全て鮮やかな朱塗り、屋根瓦は夜でもわかるほど派手派手しい黄。

 壁、天井、柱の至る所にあしらわれた金・銀の装飾が、これでもかと言うくらいに油灯の光を反射する。


 大酒でも振る舞われたのか、そこから聞こえてくるのは無数の男たちの笑い声。女たちの甲高い騒めき。

 数年ぶりに開かれた皇帝直々の催しに、隠しきれない高揚をぶちまけたような──乱痴気の宴。


(ど、どういうことですか? さっきまで、あんなにそこかしこ全部ボロボロだったのに……)

 文姫が困惑したように呟く。


(きっと、ここに贅の全てを集めているんだわ……)


 一言で表すと、“下品”あるいは“悪趣味”──荒廃した建造群の中にあって、それを意にも介さないような富の集中。まるで、スラム街に建てられた超豪華カジノだ。


 三ヶ月ほど前、東の廃塔の上から眺めたあの王宮がいま──目の前にある。

 あの時は遠くてよくわからなかった。他と比べて少しばかり大きな建物にしか見えなかった。

 でも近くで見るそれは、あの時感じたよりずっとずっと大きくて、歪で……“醜悪”だった。


「噂には聞こえていたけれど……。まさか、ここまでとはね」

 お母さまの声が低く落ちる。


「もう少し近くを歩いてください。人が多いので」

 李儒がそう言えば、お母さまはそっと着物の裾を指差した。

 私たちはお母さまの影に隠れるようにそれを掴む。


 会場の大広間は既に無数の招待客で溢れかえっており、壇上にはもう既に複数の出場者も上がっているようだ。


「どいてください。出場者が通ります」 


 淡々と告げた李儒が、両手を広げて道を開く。

 酔った客たちが不機嫌そうに振り返るが、彼女には全く怯む様子がない。

 背中から見たその佇まいは、まるで数々の死地を潜り抜けた一流の武人のよう。


 無秩序に(たむろ)していた大衆の波が割れて行く。

 壇上に向けて、一本の道が出来上がる。


「“後ろ”、ちゃんとついてきていますか? 進みますよ。波が戻らぬうちに」

 無表情で振り返った彼女が、一瞬だけお母さまを確認する。

 心なしか、その言葉は“私たち”に向けられているような気がした。


 初めてしっかりした灯の下で見る彼女の髪は、少しだけ青かった。


「……ふう。李儒、あなた随分と頼りになるのね」

 お母さまの声に、どこか安心の色が混ざる。


「ええ。“主人”の命により、“今宵は”黒赤蝶さまの護衛ですので。死んでも“貴女たち”を守ります」


 淡々とした声が、ほんの僅かに熱をもったような気がしたのは、私の気のせいだったろうか。

 でも、李儒の背中から香る“白檀”の主人が誰なのか、私には思い出せそうな気がした。


 ***

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まだまだお付き合いくださいね☆

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