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董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!〜悪役令嬢、竹簡の予言で滅亡回避〜大悪党の董卓ファミリーが闇堕ちする前に、私が全部救います!  作者: 雨咲 しゆみ
第二章──毒の予言と夜宴の蝶

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#53 沈まぬ夕陽

  ***


 あれから私たちは、今日この日のために備えてきた。

 “仙術”も、今日参加する“対戦相手”の情報収集も、そしてもちろん──


「文姫、気持ちは?」

「乗ってます……とは、言いづらいですね。こんなに“どきどき”しながら詩を書くのは初めてですから」

「大丈夫、いつもの貴女なら。ごめんね、いっぱい背負わせて」

「いいえ。頼ってもらえて嬉しいです。でも、期待を裏切るかもって考えたら……ちょっと怖いです」


 怖いのも無理はない。対戦相手はいずれも中華指折りの識者たち。

 その出自は、高名な儒家の子孫から、稀代の戦略家なんて呼ばれる者まで色様々。

 そんな歴戦の英雄たちと肩を並べるには、まだこの子は幼すぎる。


 小刻みに震える肩を、そっと抱きしめる。

 こんなに細く小さな少女の肩に、私たちはいま、“全て”を託してしまっている。

 怖くて当然だろう。この大会でお母さまが無様を晒せば、董家の命運は……“終わる”のだから。


「心配しないで……私がついてる」


 その背中を、ゆっくり撫でる。

 気休めにもならないかもしれないけど、いまの私にできることはこれしかない。


「……はい」


 漢詩大会当日の朝。


 私たちは少し早起きした。旧暦の五月の暮れは、新暦でいう七月頭くらいの暑さだ。

 でも、今年の夏は“寒い”。

 ここ数年の冷夏で、作物の収穫量はすっかり落ち込んでいる。王宮の貯蔵庫にある備蓄が心許ないと、いつか劉辯が言っていた。それはつまり、“五行が乱れている”──ということ。


 皇帝は、代々国家の催事を執り行う“神職”であるとも云う。

 霊帝さまの力が足りないのか……。それとも他に何か、“別の原因”があるのか。


 “朱雀”は、火の化身であり、夏を支配する南の神鳥──

 いつか私が仙術を使いこなせるようになれば、こんな不作に悩まされることもなくなるのだろうか。

 

「じゃあな赤麗。儂は先に行くぞ。陛下への挨拶もあるのでな」


 お昼を少し回る頃、お爺ちゃんは一足先に王宮へと出発する。

 お母さまと私は、硬い表情でそれを見送った。後ろにはもちろん、蔡邕と文姫もいる。


「どうした? なんじゃ。ははあ、流石のお前でも、この大舞台は緊張するか」


 馬に跨ったお爺ちゃんが、がははと笑ってお母さまを見る。


「もう。私だって緊張くらいします! ただでさえ王宮などに踏み入れたこともないのに、まさか大勢の前で詩を詠むなんて……」


 お母さまは顔を赤く染めてそう言った。


 そう。たとえ文姫が影で詩を書いて手渡しても、それを大衆の前で披露するのは、紛れもなくお母さま。

 招待客は、お母さまを除いてほとんどが男。つまりその一挙手一投足にまで、国中の名だたる男たちの視線を集めることになるのだから。


 お母さまは美人だ。例え霊帝さまに身染められなくても、それが何皇后の目にどう映るかは想像に難くない。


「ちょうどいい。儂も『一度でいいから長安の“黒赤蝶”に会わせろ』などという輩を追い払うのに、いい加減辟易(へきえき)していたところじゃ。この大会で其方が皆の目に触れれば、“一度は見れる”。これを口実に断れるわい」


「黒赤蝶だなんて……いい迷惑ですわ。好奇の目に晒されるのは、嫌いです」


「ははは、そうだな。男どもは其方の詩を聞きに来るのではない。おおかた、“蝶”を取りにでもきたつもりじゃろう」


 お爺ちゃんは、また愉快そうに笑う。


「……」


「じゃがな、赤麗」


 その声に馬が一度、ぶるりと首を振る。お爺ちゃんは笑いを収めると、優しい声でお母さまに呼びかけた。


「……?」


「どんなに美しかろうと頭が切れようと、お主は武門の子。たとえどれだけこの大会で恥をかこうと、ただ“(りん)”としておれ。決して(しお)れるな。それだけで──我が家の“面目”は立つ」


「お父さま……」


「少しくらい噛みついてやれ。その“涼州の牙”でな。ただの“蝶”で終わるのは、お主らしくないぞ」


 嗎き、そして鞭の音。

 それだけ言って、お爺ちゃんは馬を繰り、街を駆けていく。


「“凛”と……」


 その言葉を噛み締めるように、しばらくお母さまは胸の前で拳を握り締めていた。


「お母さま……」

 私はそんなお母さまの袖を、ちょいちょいと引っ張る。

 不安が顔に出ていたのだろうか。お母さまは私を抱きしめるように包み込んでくれた。


「ああ、小紅。ごめんなさいね。大丈夫、もう大丈夫よ」


 その声は優しい。でも、小さく震えてもいる。


「絶対に……私が守るよ」


 思わず口から漏れた私の声も、同じように震えていた。

 なんて頼りない決意表明だったろう。

 でも、お母さまは私の目を見てもう一度。


「ええ、ありがとう。でも、少し違うわ。“私たち”で守りましょう。我が家の“名誉”を」


 その瞳は、まるで燃えるように赤かった。

 自分ではない、誰かを守りたいという意志のこもった目だった。


 私もそれにこくりと頷く。振り返れば、蔡邕と文姫が微笑んだ。


 守ろう、“私たち”で。

 胸の奥が熱い。まるで、朱雀の方が私を呼んでいる。


 あの太陽が西に傾いたら、やがて夜がやって来る。そしたら、もう後には退けない。

 でも、“朱雀”は太陽の化身。沈まぬ夕陽は、この胸の中にある。


 ***

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