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董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!〜悪役令嬢、竹簡の予言で滅亡回避〜大悪党の董卓ファミリーが闇堕ちする前に、私が全部救います!  作者: 雨咲 しゆみ
第二章──毒の予言と夜宴の蝶

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#51 お屋敷でお試し

 ***


 あれから屋敷の中をうろうろしてみたけど、すれ違う家人は誰も気がつかなかった。

 目の前で手を振ったりもしたから、気がついていて声をかけなかったわけじゃなさそう。

 いつもだとちゃんと挨拶とかしてくれるもんね。


「小紅さま、いましたよ」


 文姫が、囁くように私を呼んだ。その間も、私たちの間を人が通り抜けていく。周りには聞こえてないみたい。

 でも、私たち二人の間では、ちゃんと声が届いてる。あとでどれくらい離れても大丈夫か、試してみよう。

 

 隣に行くと、蔡邕はお爺ちゃんの部屋で物書きをしていた。

 お爺ちゃんは、お父さまと華雄を連れて、今は練兵場。今日もお父さまの肉体改造に余念がない。

 こっちでの仕事はもう終わったって言っていたけれど、滞在中にも仕事は降ってくるようだ。


「ほんとだ。お仕事中みたいね」

「どうします?」

「まずは行ってみましょう」


 そろそろと近づいていく私たち。隣まで来ても、蔡邕は気づいてない。


「気がつかないものね」

 近くで手を振ってみても、「もしもし」と声をかけても振り向かない。

 完全に認識を阻害できているみたいだ。


「軽く触れてみましょう。文姫、やってみて。でもすぐに手を離すのよ」

「おお! わかりました」


 文姫が蔡邕の袖をちょいちょいと引っ張る。


「……?」

 蔡邕は一瞬袖を見たが、机の角に引っ掛けたとでも思ったのか、すぐ書類に目を戻した。


「すごい。軽く触れてもやっぱり見えてないのね」

「はぁ〜、ちょっとドキドキしましたあ」

 

 文姫は胸を押さえて緊張をほぐしている。次はどうしようか。


「じゃ、今度は何か音を立てましょうか。あの棚に置いてある適当な巻物を、一つ落としてみましょう」

「え。それは流石に気づくんじゃないですか?」


 そう。多分これは間違いなく気づく。前に劉辯と一緒にお母さまから隠れた時も、音で気づかれそうになった。

 でも、見えるかどうかを確かめるにはこれが一番。私たちの周りに意識を向けられても騙し切れるか。これはちゃんと知っておく必要がある。


 二人で後ろの棚まで行って、手を伸ばす。でも、高すぎて届かない。


「ちょっと高いわ」

「じゃ、肩車しましょう。私が下になりますよ」


 そう言って文姫がしゃがむ。私が肩に跨ると、棚に手を掛けながら「よいしょ」と声を出して立ち上がった。


「大丈夫? 重くない?」

「ええ。小紅さまは“羽”みたいです。こんなに軽いんですね〜」

 私の両腿に文姫は頬をすりすりしてみせる。

「ちょっと、頭を擦り付けるのはやめて!」


 やいやい言い合いながらも棚を見た。いくつも巻物が積んであるが、しっかり整理されている。

 棚の区画ごとに“札”で分類が貼ってあり、政務や軍務の細かい業務内容に分けられているようだった。


「まあ、よくわからないから、どれでもいいわね」

 その一つを抜き取り、文姫に声をかける。


「いい? 落とすわよ」

「はい! ぶつけないでくださいね」

 

 こくりと頷いてから、私は巻物を文姫の足元に投げる。


 ──ゴトン


 音が、私たちの耳にしっかり聞こえた。

 もちろん、蔡邕にも聞こえたみたい。彼はくるりと振り返って巻物を見た。そして、私たちの方をぼんやりと見つめる。


「ふむ……?」


 一瞬首を傾げた蔡邕だったが、その後鼻をすんすんと鳴らしながら近づいてきた。

 文姫は私を床に下ろし、二人で身を寄せ合いながら蔡邕を見つめる。

 蔡邕は巻物を拾い上げて棚に戻すと、左右を少し確認してから、また鼻を鳴らす。

 そして、ゆっくり微笑むと優しく言った。


「これはこれは、おめでとうございます……。成功したのですね」


 その目は私たちを捉えてはいない。でも、確かに蔡邕は私たちの存在に気がついている。


「お父さま!!」


 再び嬉しさが込み上げてしまったのだろう。文姫が蔡邕に飛びついた。

 いきなりのことで驚いたのか、はたまた文姫が見えていないからか。蔡邕は「おっと」と声を上げながらも、なんとか彼女を抱き留める。


「これは……。文姫だね。よく頑張った」


 そう言って、手探りで文姫の頭を撫でる蔡邕。

 文姫は嬉しそうに顔を胸に埋めている。


「あのね……あのね……」


 文姫は何か喋ろうとしているが、このままじゃたぶん、蔡邕の耳には届かないだろう。

 私はさっと印を組み、透過の術を解いた。身体に色が戻ってくる。そして音も。

 顔を上げ、二人で見つめ合う親子。胸の奥が、じわりと熱くなった。


「ふふふ、まあいいわ。お試しの続きは、また今度」


 蔡邕と文姫を少し二人にしてあげよう。

 そう思って、私は二人を残し蔡邕の部屋を出た。


 次は、お母さま。しっかり作戦を練って、本番に備える。


 漢詩大会まで──あと五日。


 ***

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まだまだお付き合いくださいね☆

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