第8話:【共犯者の妻】団長の屋敷での夜〜秘密を共有した夫婦の甘い抱擁〜
【注意】 このエピソードには、登場人物の情熱的な描写や、親密なスキンシップが含まれます。苦手な方はご注意ください。
下町での一件以来、私はゼフィール団長と顔を合わせるのが恐ろしく、そして、楽しみになっていた。
彼の冷酷な仮面の下に隠された、優しい素顔と、孤独な英雄としての側面。私は今、この世界で、彼の一番奥の秘密を知る唯一の人間なのだ。この秘密は、愛のない契約結婚を、奇妙な共犯関係へと変えていた。
その日の夜、ゼフィールが部屋に戻ったのは、夜も更けてからだった。
夕食のテーブルでも、彼は仕事の報告以外は一言も発さなかった。しかし、私は気づいていた。彼の目が、時折、私を一瞬だけ、探るように見つめていたことを。
「彼は、昼間に私が見ていたことに気づいたのかしら?」
私は平静を装い、いつものように冷静に夜の帳簿を整理していた。
そして、夜九時。
彼の部屋から、昨夜と同じく、壁を叩きつけるような苦悶の音が聞こえ始めた。竜の血の呪いが、彼を苛んでいる証拠だ。
私は迷わず立ち上がった。
扉を叩くと、中から荒々しい声が響く。
「来るな! 今夜は、特に制御が効かない……お前を傷つけるぞ、セシリア!」
「結構ですわ」
私は落ち着いた声で返した。
「傷つけられても、わたくしの義務ですから」
私はそう言いながら、扉を開けて彼の部屋へと入った。
ゼフィールは上半身の軍服を脱ぎ捨てており、逞しい背中には、黒い鱗が広がり、皮膚が裂けるほどの激しい苦痛に耐えていた。
「どうして……どうしてお前は、これほど勇敢なフリをする」
彼は壁に額を打ちつけながら、呻くように言った。その声は苦痛に濡れ、今にも理性を失いそうだった。
私はゆっくりと彼の背後に回り、そっと、彼が苦痛を和らげるために掴んでいた彼の分厚い手に、自分の手を重ねた。
「わたくしは勇敢ではありませんわ、団長」
私は冷たい侯爵令嬢の声で囁いた。
「わたくしは、あなたの秘密の共犯者です。あなたの優しい裏の顔を、わたくしは知ってしまった。その秘密を守るため、そして、あなたがこの呪いで死なないよう管理するため、わたくしはここにいるのです」
「……秘密?」
ゼフィールは、呪いの苦痛で朦朧としながらも、その言葉に反応した。彼は、私があの孤児院での出来事を知っていることに、気づいたのだ。
「ああ。わたくしは強欲な悪女ですから。あなたの弱さも、あなたの優しさも、全てわたくしが独占させていただきます」
私はそう言って、優しく彼の鱗が浮き出る背中を撫でた。その瞬間、彼の身体から発せられる熱が、少しだけ和らいだのを感じた。
「お前……本当に、悪女だな」
彼は苦痛の中で、そう呟いた。だが、その声には、怒りや嫌悪ではなく、抗えないほどの甘い諦めが混じっていた。
彼は急に振り向くと、私の体を力任せに抱きしめた。その抱擁は、昨夜よりも強く、独占的だった。
「セシリア、お前を、俺だけのものにしたい」
彼の熱い吐息が、私の首筋にかかる。彼の口調には、理性と本能が混在していた。
「お前の匂い、その肌の冷たさ……俺の呪いを鎮める毒だ。俺を正気に戻すな、狂わせろ」
彼の腕が私の華奢な背中に回り、抱擁を深める。私は彼の筋骨隆々な胸板に押し付けられ、息が詰まりそうになる。
「愛はなくとも、お前は俺の妻だ。俺の全てを受け入れろ」
彼はそう言って、私の唇を、熱く、強引に、貪るように塞いだ。
私は抵抗できなかった。彼の持つ孤独と優しさ、そして呪いへの恐怖。その全てを受け入れたいという、強い衝動に駆られていた。
長いキスが終わり、彼は私を強く抱きしめたまま、静かに呟いた。
「……今夜は、俺から離れるな」
彼の熱に包まれ、私は目を閉じた。愛のない契約から始まったこの関係は、いつの間にか、互いの秘密を共有し合う、危険で甘い関係へと変わっていた。
(第8話・了)
(次話予告:【嫉妬の炎】元婚約者、王太子がヒロインと共に仕掛ける罠)
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