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悪役令嬢を名乗った私ですが、ラスボス竜騎士団長に「一生愛す」と求婚されました  作者: みー


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第5話:【新居生活】黒の竜騎士団長の屋敷へ〜秘密の病と、初めての甘い誘惑〜

王太子との婚約破棄から三日後。

私は黒の竜騎士団長の屋敷、通称"黒竜城"へと移り住んだ。


王都の外れ、荒涼とした土地に建つその屋敷は、侯爵邸とは比べ物にならないほど冷たく、殺風景だった。壁の色はくすんだ石灰色で、装飾は最小限。まるで要塞のようだ。


「ここが、今日からお前の城となる」


ゼフィール団長はそう言い、私を案内した。彼は私の荷物を運ぶ使用人たちにさえ、冷徹な仮面を崩さない。


"愛のない結婚"とはいえ、私は一応この家の"夫人"だ。しかし、屋敷の雰囲気は、とても新婚夫婦の住まいではない。団長は私に、屋敷の最も奥まった一室を自室として与えた。


「俺の部屋は、ここから離れている。勝手に立ち入るな」


「承知いたしました。わたくしは契約通り、権力と地位の保持という義務を優先いたします。団長のお邪魔はいたしませんわ」


私は冷淡な笑みを返し、団長を部屋から追い出した。



扉が閉まり、一人になった瞬間、私はどっと疲労を感じた。ここ数日の緊張で、心身ともに限界だった。

ソファに腰を下ろし、天井を見上げる。


「この結婚は、破滅回避のための保険。愛はない。ただ、強大な力の傘の下に入っただけ」


そう自分に言い聞かせる。しかし、時折見せるゼフィールの、あの強い独占欲に満ちた瞳を思い出すと、背筋がゾクゾクするのを止められない。


彼は確かに冷血漢だが、私の"悪女"の仮面を見破り、それを評価してくれた。

それは、誰にも理解されなかった転生者としての私にとっては、奇妙な安堵でもあった。


__________

新生活が始まって数日。


ゼフィールは日中は竜騎士団の仕事で不在だ。私は侯爵令嬢としての知識を使い、屋敷の事務や家計を完璧に管理し、彼の期待に応える努力をした。この完璧な妻の役割が、私の"悪女"の仮面を維持する唯一の術だ。


夜になると、ゼフィールは必ず帰宅するが、二人の会話は最低限。主に"社交界での貴族の動向"、"団の予算"といった業務的な内容だけだ。そして、夜九時になると彼は必ず自室に籠もり、朝まで出てこない。


まるで、彼の夜は私には侵すことのできない聖域であるかのようだった。



その日も、夕食を終えたゼフィールが自室へ向かった後のことだった。


私は自室で帳簿を広げていたが、遠くからゴオオオという、獣の唸りのような、低い苦悶の声が聞こえてきた。それは、まるで壁を隔てた地下から響いているかのようだ。


私は思わず顔を上げた。


「今の……何の音?」


侍女はいない。屋敷の使用人も、誰も動じる様子がない。まるで慣れ切っているかのように、皆、静かに自らの仕事をしている。


私は好奇心と不安に駆られ、帳簿を閉じ、音の元をたどることにした。

音は、ゼフィールの自室から響いていた。彼の部屋は、屋敷の他の部屋と比べ、壁が分厚く、厳重な鍵がかけられている。


音は苦悶の声だけでなく、何かが激しく叩きつけられるような、凄まじい衝撃音も混じっていた。


「まさか、彼が……誰かを傷つけている?」


恐怖が私を襲う。しかし、私はふと、ゲームの設定を思い出した。


黒の竜騎士団長ゼフィールは、その強大な竜の血を制御できず、夜になると"呪い"によって激しい苦痛に苛まれる。その苦痛のせいで、過去に何人かの使用人を傷つけ、彼はさらに孤独を深めた――


「これは、秘密の病……!」


私が彼に近づけば、彼に殺されるかもしれない。だが、このまま放っておけば、彼は苦しみ続け、いつか本当に理性を失ってしまうかもしれない。


私は意を決した。破滅回避の契約だけではない。私はこの世界に転生した以上、ただの傍観者ではいたくない。


「団長、あなたの秘密をわたくしには教えていただけないの?」


私は彼の部屋の扉を叩き、優雅だが強い声で問いかけた。


内側から、一瞬、音は止んだ。そして、低く、押し殺したような声が響いた。


「来るな……! お前は、愛のない妻として、俺の夜に関わる義務はない」


「ええ、愛はございませんわ」


私はため息をついた。


「ですが、団長がその病で命を落とせば、わたくしの地位も富も消滅する。それは契約違反ですわ。わたくしは、契約の履行のために、あなたの病を治す義務がある」


私は悪女の仮面を最後まで崩さない。


「開けてくださいませ、ゼフィール団長。わたくしは、あなたの夜を管理する者ですわ」


扉の向こうの衝撃音と唸り声が、再び始まった。そして、ガチャリ、と、重厚な鍵が外れる音がした。


扉がゆっくりと開き、現れたゼフィールは、仮面を外していた。

彼の美しい顔は、苦痛に歪み、額には汗が滲んでいる。そして、その背中からは、黒い竜の鱗が部分的に生え始めていた――。


「来るな、セシリア……俺は、お前を傷つける……」


私の心臓は高鳴った。恐怖と、そして、初めて仮面の下の素顔を見たドキドキで。

(第5話・了)

(次話予告:【独占的な看病】「君の匂いが、俺を落ち着かせる」〜初めての甘い誘惑〜)

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