第10話:【逆襲開始】悪女の知識で陰謀を打ち砕け!〜団長への秘密のメッセージ〜
舞踏会場の地下にある、冷たく薄暗い尋問室。
私は騎士に連れられてその部屋に入った。部屋には王太子の側近である文官が二人と、そしてリリアーナが、いかにも不安そうな顔で控えていた。
「セシリア侯爵夫人。貴殿の夫であるゼフィール団長に、国家機密漏洩の重大な疑惑がかけられている」
文官の一人が冷たく告げた。
「その計画書に記載された印章とサインは、団長ご本人のものと確認されている。貴殿は団長の最も近しい配偶者として、この不正について何か知っているか?」
リリアーナは私を見て、静かに微笑んでいた。その目は怯えているフリをしながらも、私への勝利を確信している。
「知るわけがございませんわ」
私はため息をつき、優雅に椅子に腰かけた。
「わたくしは、愛のない契約結婚を結んだ強欲な悪女ですもの。夫が何を企んでいようと、わたくしの関心は侯爵家の地位と富の保持だけ。夫の仕事など、一々詮索するほど暇ではございませんわ」
私の"悪女"としての姿勢は、逆に相手を戸惑わせたようだ。彼らは、私が動揺し、夫を売るか、泣き叫んで無実を訴えると思っていたのだろう。
「とぼけるつもりか!」
文官が声を荒げる。
「お前の夫が有罪となれば、侯爵家は連座だ!お前も地位を失う!それでも知らぬと言うのか!」
「当然ですわ」
私はふわりと笑った。
「わたくしが知っているのは、ゼフィール団長が私に愛を見せず、地位と富だけを与えているということだけ。夫が裏切るなら、わたくしも喜んで次の獲物を探しますわ」
この尋問は、私にゼフィールの有罪を認めさせるか、私がゼフィールを裏切る発言を引き出すことが目的だ。だが、転生者の私は、ゼフィールの真の目的(孤児院の件)を知っている。彼の無実は、私が最もよく知っている。
「では、一つだけお尋ねします」
私は文官ではなく、リリアーナに視線を向けた。リリアーナは一瞬怯んだが、すぐに優雅な笑みを張り付けた。
「あの『機密漏洩計画書』とやらは、どこから見つかったのですか? 団長は、自室の鍵を非常に厳重に管理されていますもの。誰も侵入できないはずでしょう?」
リリアーナは顔色を変えずに答えた。
「それは、騎士団の規律を重んじる者からの内部告発によって、団長の私室から発見されましたわ。不正の証拠を隠しきれなかった、ということでしょう?」
――なるほど、"内部告発"の形か。王太子は自分の手を汚さず、ゼフィールを追い詰めるつもりだ。
私は尋問室で時間を稼ぎつつ、頭の中で、ゼフィールが私のメッセージを見つけるためのルートを必死に計算していた。
その頃、王宮騎士団本部。
ゼフィールは謹慎処分を受け、執務室で一人、静かに座っていた。彼は、自分の印章とサインが使われた『計画書』の真偽を冷静に見極めていた。
「俺の印章は、第三騎士団の倉庫に厳重に保管されていたはず。これを持ち出せるのは……」
彼は、自分を陥れた者の見当はついていたが、証拠がなかった。
その時、一人の若い騎士が、ゼフィールの執務室の扉をノックした。彼はゼフィールに心酔している、数少ない部下の一人だった。
「団長、奥様が舞踏会場の中庭で、何かを落とされたようです。これは……」
騎士は、中庭の花瓶の陰から回収した小さな紙片をゼフィールに差し出した。
ゼフィールは紙片を開き、そこに書かれた『黒竜城の地下、第三倉庫、鍵は私室の壁』という暗号めいた文字を見た。
その瞬間、彼の碧色の瞳が鋭く光った。
これは、セシリアが、王太子の陰謀を予期し、彼と結んだ"秘密の約束"の印だった。
――「団長の権力と、私の悪女の知識。両方を使って、私たちは生き延びる」
セシリアが私に、そう囁いた夜の言葉を思い出す。
「愚かな……王太子め」
ゼフィールは立ち上がり、黒いマントを翻した。
「騎士団長を侮るな。そして、俺の妻の知恵を、さらに侮るな」
彼は騎士に、私室の鍵を破り、"あるもの"を第三倉庫から回収するよう、極秘の命令を下した。
そして彼は、セシリアを尋問室から救い出すため、王宮へ向かって走り出した。その顔には、冷徹さだけでなく、妻を危機に晒されたことへの、激しい怒りが燃え上がっていた。
「待っていろ、セシリア。お前を助け出す。そして、お前に手を出した愚か者には、竜騎士団による最も恐ろしい"報復"をくれてやる」
(第10話・了)
(次話予告:【夫婦の共闘】私室の秘密の鍵、団長が用意した「真の機密文書」)
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