原点にして
「またか…」
刃が抜けると同時に肉がぬるりと再生を始める。
裂け目が撫でられるようにふさがる。
勝樹は一瞬の焦りで呼吸が乱れた。
再生速度は少しだけ遅くなっていたが、それでも十分速い。
前と同じパターンならば、ここであせって致命を狙い再び手痛い反撃をもらう。
(焦るな)
三度の死で学んだのは「慎重さ」だ。
無理に突っ込めば、また同じ結末を迎える。
だから、相手の再生を削ぐように、何度も浅く深く、筋肉をえぐるように槍を入れる。
血が飛び散り、床が暗く染まる。
(焦るな)
自分に何度も言い聞かせる。
ゴブリンは怒声を上げ、体を地面に擦りつけるようにして傷をかばい、振り返る。
赤い目が血走り、獣のように爪を立てる。
だが一歩一歩、その歩幅が小さくなってゆく。
勝樹はその変化を目で追い、さらに槍に力を込めた。
相手の左脚の付け根を狙い、深く突き刺す。
今度は素早く、刃先を押し込みながら体を回転させ、股関節を粉砕するように回す。鈍い破砕音がしたように思えた。
ゴブリンは大きく体を崩し、右手の棍棒が床に叩きつけられた。
(効いてる……効いてるんだ)
胸の奥で、小さな歓びが芽生えた。
歓びはすぐに恐怖に変わる。
勝樹が油断した瞬間、ゴブリンは再び起き上がり、目に狂気を宿した。
まるで最後の力を振り絞るかのように、棍棒を掴んで振り回した。
反応できなかったが、こん棒は鼻頭をこする。
残った脚で跳ね、勝樹は右の脛を蹴られ、衝撃が膝をすり抜けて骨にまで突き刺さるような痛みが走った。
バランスを崩し、地面に膝をついた。
ゴブリンは再びこん棒を横に振り、頬に直撃。
血の味が口に広がり、視界が揺れ、白く塗りつぶされた。
「くっ……!」
(立て)
そう自分に言い聞かせながら、勝樹は最後の力を振り絞り立ち上がる。
槍を手に、グッと腰を入れて、肩から腹へと大きく突き刺す。
刃が深く入り、骨にぶつかる感触が全身に伝わった。
ゴブリンの叫びが、先ほどとは違う、鋭く切り裂かれたような音で広間に鳴り響く。
槍を構え直し警戒する。
再生はまだ始まらない。
ゆっくり近づき喉元を突き刺す。
(まだだ)
もっと命に直結する場所に突き刺す。
確実に刃を押し込む。
ゴブリンの両の足がゆっくりと力を失い、体が床に沈む。
「……し、死んだのか?」
耳元で、自分の心臓の鼓動だけが鳴る。
長く、鋭く、しかし生きているという確証の音。
勝樹の手から槍が抜け石床に音を立てて落ちた。
足から崩れ落ちるように座り込む。
両手と膝が震える。
一度口の中にある血を吐き出す。
直ぐに血が口の中に広がる。
だが、確かに彼は生きていた。
勝樹は荒い息を整えながらようやく、震える声を漏らした。
「……倒した…」




