原点にして
四度目。
塔一階の広間に立ったとき、山田勝樹の全身は震えていた。
槍の柄が手の汗でにゅるりと滑る。
三度の死が、皮膚の下でまだ脈打っている。思い出すたびに胃が締め付けられ、喉が焼けるように熱い。
だが同時に、三度目の戦いでほんの僅かだが感じた「手応え」が、ぎりぎりのところで彼を立たせていた。
(今度は、違う。少しは、違うんだ)
短い、その程度の自分への言葉しか出てこなかった。
声に出すと震えが増す気がして、勝樹は唇を噛みしめた。
足元の石畳には前の戦闘でついた血の跡がうっすらと残り、冷たい空気が鼻腔を刺す。
広間の中央に、ゴブリンが一匹、ゆっくりとこちらを向いた。
紫の皮膚が蝋のように光り、赤い瞳がぐるりと勝樹をとらえる。
「来たか」
ゴブリンの表情からそう言ってるかのように思えた。
獣のような低い唸り。
ゴブリンは棍棒を軽く振り上げるように構えた。
勝樹は自然に、足を半歩引き、腰を落とした。
三度の死が教えたことは少ないが、唯一確かなことがあった。
子ども程度の大きさのゴブリンと大学生との体格の差と再生の速さそして槍のリーチ。
頭を刺しても瞬時に傷が塞がる。
だから、頭だけを狙うのは愚かだ。
再生は完璧ではない。
相手の動きを読む。
一撃で倒そうと思うな。
体格差はこちらが有利。
槍の柄を強く握る。
手のひらがしびれる。
体を安定させ、視線はゴブリンの腰付近、足の筋肉、棍棒を振るう軌道。
ゴブリンの振りかぶりに合わせ動いた。
横へ滑らせるように体重を預け、ゴブリンの懐へ滑り込むように腕を伸ばし、刃先を深く突き立てた。
肉を突いた衝撃が掌を通り、腕全体に走るが、今回はただ刺すだけでは終わらない。
刺したまま手首を返し、穂先で腹の奥を裂くように突き上げる。肉の感触が違う。先ほどまでより抵抗がある。
ゴブリンは呻き、体をひねる。
効いている。
だが、満足してはいけない。
再生が追いつく前に、もう一度、二度。
脚に深く、股関節に向けて刺し込む。
骨に触れたような感触が手に伝わると同時に、ゴブリンの動きが鈍る。
勝樹は息を吐き、体の重心をさらに低くして、再度攻撃の構えをとる。
慌てるな、よく見ろ。
自分に言い聞かせる。
棍棒が大きく振り下ろされる。
棍棒の軸に沿ってすり抜けるようにして、背後に回った。
短い間合いで、彼は首筋、肩甲骨、肋骨の間を狙って突き刺した。
肋骨の間を狙ったが刃先が骨に阻まれた感触がした。
だがかなりのダメージを与えたようでゴブリンが前のめりに倒れかける。




