原点にして
三度目の正直。
扉が軋む音と共に、山田勝樹は重い足を踏み入れた。
空気は湿り、血と鉄の臭いが鼻を突く。
床の石は冷たく、あの忌まわしい光景、紫色の肌と赤い瞳をしたゴブリンが、またそこにいた。
変わらない。
まるで時間が止まったように、あの魔物は待っていた。
だが、勝樹の中の何かはもう違っていた。
一度目の無力な死、二度目の惨めな死。
その痛みが、彼の体に、骨に、心に刻まれている。
喰われた感覚。噛み砕かれる痛み。
叫びながらも助けが来ない現実。
ヤマの無表情な声が僅かに聞こえた気がする。
「学べ」。
鈍い覚悟が芽生える。
(今度こそ……)
自分は何故こんな事をしているのかわからないままだが。
やらなければこの地獄は続く。
両手で槍を強く握り、足を低く構える。
呼吸は浅く、手のひらには汗。
ゴブリンが歯を剥き出して咆哮し、こん棒を振り上げる。
その瞬間、勝樹は脳裏に焼き付いた二度の死を思い出した。
真正面から突けば、叩き潰される。
頭を狙えば、再生される。
なら。
勝樹は横へ飛び込み、ゴブリンの懐に潜り込む。
槍の穂先を低く滑らせ、脇腹を貫く。
肉の裂ける感触。
紫の体液が噴き出し、ゴブリンが一瞬ひるむ。
勝樹は歯を食いしばり、さらに突き上げた。
腕、肩、喉元へ次々に狙いを変え、突く。
ゴブリンの身体が揺れ、呻き声を上げる。
確かに効いている。
再生はしているが、その速度がわずかに遅い。
「……いける、かも……!」
初めて感じる手応え。
勝樹の中に、わずかな希望が芽生えた。
恐怖の奥で、なにか熱いものが胸を焦がす。
再生するなら、追いつけないほど攻撃すればいい、そう信じ、勝樹は叫びながら突き続けた。
しかし、その勢いが仇になった。
焦りと疲労で足が滑る。
一瞬の隙を逃さず、ゴブリンのこん棒が横から叩きつけられた。
鈍い音が響き、視界が回る。
脇腹に焼けるような痛み。息ができない。
「ぐっ……!」
勝樹は必死に立ち上がろうとするが、体が動かない。
ゴブリンは再び立ち上がり、腹の傷を再生しながら笑うように声を上げた。
その姿を見て、勝樹の心が折れる。
「……」
次の瞬間、こん棒が振り下ろされた。
腕で受け止めようとしたが、骨が砕ける音が響く。
膝をつき、呼吸が途切れる。
視界の端で、槍が転がるのが見えた。
彼の武器。彼の希望。
それが離れていく。
ゴブリンが勝樹の首を掴み、持ち上げる。
赤い瞳が至近距離で光り、獣臭い息が顔にかかる。
勝樹は必死に足を動かすが、空を蹴るだけだ。
「やめろ……やめてくれ……」
その声は誰にも届かない。
こん棒が、再び振り下ろされた。
頭蓋に響く鈍い衝撃。
視界が白く染まり、音が消える。




