表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラッドアンドハント  作者: アルミさん
5/7

原点にして

気がつくと、勝樹は再び謁見の間の床に倒れていた。

体はぼろぼろで、息が上がる。

肌に残る痛みは現実のものとしてそこにあった。

血の匂い。

喉元の焼けつくような苦さ。

だが生きている、誰かが彼を抱え起こしたような感覚がある。

視線を上げると、玉座の上にあの少女、ヤマが座っていた。

彼女は頬杖をつき、何事もなかったかのようにこちらを見下ろしている。

「じゃ、行ってらっしゃい。」

勝樹は口を震わせ、言葉を絞り出した。

「な、なんで……どうして……」

だがヤマは肩を竦め。

「次。」

その言葉は、慰めでも励ましでもなかった。

勝樹は震えながら立ち上がろうとする。

足はガクガクして、まともに体を支えられない。

胸の内に湧き上がるのは、怒りでも憎しみでもなく、深い恐怖だった。

自分は何のためにここにいるのか。

先ほどの死で彼は吐き気に襲われた。

「帰してくれ」と、勝樹は呟いた。

ヤマは一瞬だけ表情を緩めたように見えたが、それは気のせいだった。

彼女は立ち上がり、短く手を振る。

指先から細い光が伸び、勝樹の額にふれる。

温かさが皮膚を通り、思考を溶かしていく。

次に気づくと、彼は塔の入口に立っていた。

逃げる選択肢さえ与えられない。

「行きなさい。」

ヤマの声が背後から響く。

背筋に冷たいものが走る。

勝樹は手にした槍を握り締める。

心臓はまだ大きく鼓動している。

だが恐怖は、前よりずっと深く、彼の中に根を張っていた。

負ければ再びあの地獄の様な痛みに襲われる。

扉が勝手に開く。

同じ第一階層でゴブリンは待ち構えていた。

赤い瞳が勝樹を見つめる。

こん棒を振るう動作は同じだが、先ほどよりも冷たく、確信に満ちているように見えた。

勝樹は息を吸い、動く。

最初の経験が役に立つはずだ。

そう自分に言い聞かせる。

槍を振る、突く、頭を貫くことを恐れずに力を込める。

刃が頬を滑り、再び狙うも皮膚をかすめる。

三度目にやっと相手の顔面を捉えた。

だが、またしても相手は再生し、勝樹の腕を掴んで床へ引き倒した。

「嫌だ!嫌だ!」

叫びは破滅的な空虚さを伴った。

彼の中で何かが折れる音がした。

痛みは前より深く、身体の奥へと広がる感覚がある。勝樹は手足をもがくが力が入らない。

再び口の中に得体の知れない熱が広がり、世界が赤黒く染まっていった。叫びは空に溶け、やがて消えた。

謁見の間に戻ったとき、勝樹の体は以前にも増してぼろぼろだった。

だが痛みは確かに、彼の記憶の中に刻まれている。

ヤマは玉座の高さから彼を無表情で見下ろす。

「二度目も同じ、予想通りね。」

勝樹は膝をつき、項垂れる。

震える手が槍の柄を掴んでいる。

目の前の少女は、人間ではなくまるで動物の反応を確かめているように思える。

勝樹は目を閉じ、薄暗い謁見の間の光の中で、また次の扉が開かれるのを待つしかなかった。

痛みは消えず、記憶は消えない。

逃げることさえできず戻される、それだけは確実だった。

彼はまだ、この夢から現実へ戻る方法を知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ