代償
綾は目を開けた。
聖域での一週間が身体に刻まれているはずなのに、目の前には最後に見た体育館の光景がそのまま広がる。
時間はほとんど進んでいない。
目眩で視界が歪む。
視界の端が波打ち、耳鳴りが遠くで鳴る。
立ち上がろうとした足がふらつき、綾は一瞬、膝をついた。
身体には温かな光が纏い始める。
彼女は無意識に指を額にあて、呟くように言った。
「聖剣よ。」
光輝く剣が彼女の手に現れる。
背中から翼が現れ、残像を残しゴブリン、魔犬が斬られ光に変わる。
翼から放たれる風は傷と疲労を癒す。
翼から放たれる光は皆に力を与えた。
勝樹は目を開きある1点を見つめた。
「マヤが、綾を選ぼうとしていた。」
胸の奥に冷たいものが落ちる。
綾は宙を舞い力を与え、その機動力を活かして刃を振るう。
何を思ったか、彼女は体育館の外に出て戦い始めた。
「ホーリーランス」
呟く。
左手に光の槍が現れた。
彼女は、それを魔物の群れめがけ投げる。
着弾すると眩い光が照らし、数十の魔物を光の粒子へと変えてしまう。
今まで空を支配していた夜鴉は綾の光に引かれるように集まり、綾を攻撃。
「エンドリ!」
彼女の身体から青白い電気が放電し、夜鴉から夜鴉へと連鎖して次々に撃ち落としていく。
その電気を帯びている彼女の速さが一段と速くなる。
だがその瞬間、綾は全身を焼き尽くすような激痛に襲われた。
視界が揺れ、赤く滲む。
まだ使いこなせていない。
脂汗を流しながら戦う。
疲労感が急激に襲う。
それでもと歯を食いしばる。
彼女の強さ、彼女が発する光が皆を奮い立たせ士気を高めていく。
それを勝樹は複雑な気持ちで眺めていた。
しかし、ここは戦場だ。
呆けて眺めている時間は無い。
体育館の壁が突き破られ、破片が飛ぶ。
そのすぐ近くに勝樹はいた。
大量の破片は勝樹を幾度も襲う。
全身の痛み。
何が起こったのか。
左太ももと、右肩を木片が貫いていた。
そして壁を破った魔物はグラーヴだった。
前回、優斗を殺した張本人。
「こんな所で。」
床を這いずりながらグラーヴから離れる。
「先輩、痛そうですね。」
見上げると、槍を持った霧島レイナが居た。
彼女の声は冷たくもどこか無邪気だ。
「何やってるんだ!逃げろ!」
「逃げる必要はありません。大丈夫ですよ。」
瓶を取り出す。
その中には緑色の液体が入っていた。
「逃げろ!はやっ…」
無理やり口の中に瓶を押し込まれ中の液体を飲まされた。
更にレイナは無理やり勝樹に刺さっている木片を引き抜く。
激痛。
勝樹は大声を上げてしまう。
その間もグラーヴはゆっくりと近づいてくる。
「優斗せんぱ〜い。早くしないと勝樹先輩が死んじゃいますよ!」
その言葉に反応した優斗は振り向く。
レイナは手に持つ槍を優斗に投げ、グラーヴを指差した。
「アイツを倒してください。」
「勝樹!ハンタービジョン!ホーミングショット!」
受け取った槍と、包丁やナイフなどを投げまくる。
投擲物は不規則な軌道を描きグラーヴへと突き刺さり、槍は心臓を貫く。
グラーヴは二度、三度と痙攣して崩れ落ちる。
優斗は激しい頭痛に襲われた。
「大丈夫か?」
頭痛を抑えながら優斗は勝樹に近く。
何故急に頭痛がしたのか分からない。
疲れで身体が悲鳴をあげているのか、あるいはこの力のせいなのか。
激痛で勝樹は答えられない。
「私が背負いますので大丈夫ですよ。」
勝樹を背負い、戦線から離れる。
負傷者が集まる場所で、レイナは勝樹をゆっくりと降ろした。
「いやー危なかったですね先輩。少し休んでいてください。私はこれで。」
何を言っている。
何処かに去っていくレイナの背中を見送った後、自分の体を見ると気のせいか傷が小さくなっている。
「勝樹!大丈夫か?」
傷を見て表情が曇る。
優斗が先ほど投げた槍を勝樹に手渡す。
何処かで見たような槍。
「直にヒーラー呼んでくるよ。」
「大丈夫だよ。」
外から小さな破裂音が何度も聞こえた。
何が起きたのか確認しようとした時、ある言葉が聞こえた。
「自衛隊が来た!助かったぞ!」




