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ブラッドアンドハント  作者: アルミさん
30/33

代償

周囲が喧騒に包まれる中、天城綾は一人取り残されていた。まるで体が氷で縛られたかのように、筋肉が動かない。

周囲の空気が凍りついたように冷たく、本能がただ一つの命令を繰り返す。

(逃げろ)

冷や汗が流れる。

(振り向くな、逃げろ)

本能が強く訴えた。

それでも綾はゆっくりと後ろを振り向く。

空間に穴が空いていた。

石畳の道。

ボロボロの城壁。

以前は栄華を極めていただろう古城が空間に空いた穴から見えた。

(あれから逃げなきゃ)

心拍数、呼吸が乱れる。

「嫌ー!来ないで!」

何故か分からないが恐怖だけが彼女を染め上げ、涙を流しながら大声を上げた。

それを皮切りに氷点下の寒さは消え、日向のような暖かさが彼女を包み込んだ。

「大丈夫ですか?」

澄み切った女性の声。

ゆっくりとそちらを見ると3人の人が立っていた。

1人の女性が声をかけた。

「私は光の神、名前はルミナリア。」

ヒゲを生やした男。

「俺は正義の神、アストラルだ。」

他の二人に比べて幼さが残る女性。

「わたしは希望を司る神、エスペリア。」

綾は理解が追いつかず3人を見つめ次に周りを見渡した。

白、光に満たされた神殿のような場所。

僅かに水の流れる音が聞こえた。

「天城綾さんですね?」

ルミナリアが声をかけた。

慌ててルミナリアを見る。

「はい。」

「貴女は護りたい人は居ますか?」

アストラルが続けて声をかけた。

「力が無ければ全てを失う。」

エスペリアは綾の肩に手を添える。

「綾が立ち向かう勇気があるなら、私たちのスキル、加護を与えるよ。」

綾の脳裏に魔物が人を襲う姿が蘇る。

体育館の光景――叫び、血、倒れる人々。

何もできなかった無力が、かすかな声になった。

「私も戦いたい。」

三柱の神は微笑みを浮かべ頷いた。

「では授けましょう。」

手を重ね一つの光の玉が出現。

綾の胸のなかに入っていった。

体の中から力が湧き出てくる。

力が身体を満たす感覚。

「さて、俺たちはこれで引く。」

「またね〜」

エスペリアは手を振りながら消えて行く。

「綾、私の巫女になりなさい。より強い力を授けましょう。」

ルミナリアは手を差し伸べた。

綾は戸惑いながらその手を握る。

更に強い力の流れが手を伝い綾に流れ込んできた。

温かい優しい力の流れ。

「ルミナリア様、後は私にお任せください。」

黒髪の青年がいつの間にか綾の後ろにいた。

フルプレートの鎧を身にまとう男性。

「そうですね。綾、その者は貴女の先輩に当たります。歴代最強の光の戦士と言ったところでしょうか。今は訳あって魂だけの存在ですが、今の貴女には学ぶことが山のようにあります。それでは任せましたよ。」

「お任せください。」

青年は頭を下げてから綾を見つめる。

「時間が惜しい、直に始めるぞ。1週間程、お前を鍛えてやる。」

訓練は容赦なく続いた。

剣の素振り、重心の入れ方、魔力の糸を筋肉に通す方法や魔法の使い方。

綾は何度も倒れ、何度も立ち上がった。


ヤマは玉座に座ったまま目を閉じ小さくつぶやく。

「そちらに行くか」

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