原点にして
ボサボサ頭の男はpcの電源を落とす。
サ終を見届けた彼の名前は山田勝樹。
趣味はゲーム。
10代後半は夢や目標を持って然るべきなのだが彼にはそれがない。
ただ生きているだけ。
気だるそうに布団の中に入り眠りにつく。
気がついたら月明かりだけが頼りの夜。
勝樹の視界に巨大な古城がそびえ立っていた。
巨大な古城は、山脈の背に食い込むようにそびえ立ち、まるで大地そのものが石となって牙を剥いたかのような威容を誇っていた。
城壁は黒灰色の巨石を幾重にも積み上げて築かれ、一つ一つが家屋ほどの大きさを持ち、幾千年の風雨に削られながらもなお崩れる気配を見せない。
壁面には無数の傷跡や剣痕、炎に焼かれた跡、魔法の爆裂で抉られた窪みが刻まれ、この城が数え切れぬ戦と災厄を耐え抜いてきたことを物語っている。
城門は巨大な竜の顎を思わせる形で開き、鉄と魔銀を混ぜた重厚な扉が、今も低く不気味な唸りを立てていた。
門をくぐると、広大な中庭が広がり、ひび割れた石畳の隙間からは、枯れた蔓や名もなき黒い花が伸びている。
兵士の訓練場であり、祝宴の場でもあったその場所には、遠くで鳴く怪鳥の声だけが響く。
幾本もの塔が城の各所から突き出し、天を突き刺す槍のようにそびえている。
高い主塔は常に雲を貫き、頂には紋章が刻まれた水晶の尖塔があり、夜になると淡い赤光を放って周囲の荒野を照らす。
城の内部は迷宮のごとく入り組み、果てしない回廊と階段、天井の見えぬ大広間が連なっている。
壁には色褪せたタペストリーが掛けられ、竜と人、神と魔が争う光景が織り込まれているが、その多くは破れ、血のような染みが残っている。
勝樹はこの古城をよく知っていた。
迷宮の様に入り組んだこの回路を間違えることなく謁見の間に辿り着く。
玉座に座り頬杖をついて目をつぶっている美少女。
ゲームで作ったあのキャラに、瓜二つだ。
画面の中のキャラクターを何度も調節した事を思い出す。
細い顎に銀白の髪。
子どもじみた肩。
だが最も目を引くのは、左右で色の違う瞳。右は深い蒼、左は焔のような赤。
自分が創り、愛着をもって動かした仮想の存在が、目の前で眠っている。
そう気づいたとたん、何かが胸の奥で弾けた。反応したのは彼の内側の得体の知れない恐怖か。
彼女がゲームの存在ならこの城の主であり勝樹の分身。
名前は夜魔
山田から名前を取ってつけた。
玉座に寄りかかった少女は、ゆっくりと瞼を開けた。青と赤が混じり合う瞳が勝樹を捉えた瞬間、言葉を奪われる。
彼女は自分が想像していたより存在そのものがずっと圧倒的だった。
彼女が瞼を開けた瞬間、真冬の時に寒さで身体が震えている時の様になっている。
寒さと抗うことができない死の恐怖が湧き上がる。
「ヤマで、いいんだよな?」
なんとか絞り出した声。
少女は半分微笑み、半分呆れたように視線をずらした。
眠たげに見えるその顔が、不思議と老獪な印象を与えた。
「来たか創造主…いや、小僧。」
声は滑らかで冷たい。
自分が創造し愛着を持ったキャラが生き物のように動くさまに彼はなぜか頬が熱くなり、寒さや恐怖ではない口元がわずかに緩む。夢だ。ここは夢だ。
そう自分に言い聞かせても、心臓はどうしようもなく早鐘を打った。




