日常?
勝樹は立ち上がり、慎重に近づく。
取っ手に触れると、冷たいはずの金属が微かに脈打っていた。
まるで生き物の鼓動のように。
不気味さに一度手を離す。
そしてスマホを取り出し、撮影。
22時24分、扉は写し出されておらず、壁が写し出されていた。
再び取っ手をつかみ息を整え、ゆっくり回す。
扉は音もなく開いた。
画面の中はまだ壁を映し出している。
勝樹の目には真っ暗な暗闇が見えていた。
一歩踏み出した瞬間、謁見の間にいた。
慌てて後ろを振り向くも扉はない。
スマホはまるで電源が落ちたようにただの箱に成り果てていた。
後悔と絶望。
広大な空間の中央奥に玉座が据えられている。
そして、そこに座る存在。
ヤマ。
白銀の髪が玉座の背に流れ、頬杖をついたまま眠っている。
胸は微かに上下している。
圧力があった。
ただそこにいるだけで、小さい身体だが圧倒的に大きい怪獣を目の前にしているような。
はたまた空間が沈んでいる、ブラックホールの様にこの世の全てを飲み込むような。
勝樹は思わず息を潜めた。
起こしてはいけない、そう直感する。
夢がフラッシュバックの様に現れた。
絶対に起こしてはならない。
彼は静かに踵を返した。
(とりあえず脱出だ。)
古城は広大で設計したのは自分だ。
再び城の内部のマップを記憶から呼び覚ます。
無数の扉と区画が存在していた記憶がある。
勝樹は謁見の間を抜け、脇の回廊へと進んだ。
ソレを見送る赤い瞳と青い瞳。
相変わらず気だるそうに玉座に座っていた。
薄暗い廊下を歩く。
最初に訪れた場所は書庫。
浮遊する魔導書がゆっくりと跳んでいた。
大量にある本。
その中から本を数冊手に取る。
持って帰ってみよう。
次に辿り着いたのは、錬金区。
錬金部屋とは違い、大型の錬金工房。
ゲームでは、全てのアイテムや武具等を作ることができる設備が揃っている。
扉には複雑な術式が刻まれている。
中央には血滴の紋章。
恐る恐る触れると、紋章が淡く光り、扉が自動で開いた。
中は巨大な工房。
天井近くまで届く蒸留装置。
浮遊する水晶反応炉。
幾何学模様を描く錬成陣が床一面に刻まれている。
空間そのものが魔法陣の内部のようだった。
中央の作業台に、いくつかの物品が整然と置かれている。
勝樹は慎重に近づく。
最初に手に取ったのは、小型の水晶瓶だった。
中には銀色の液体が封入されている。
ゲームでは、素材を突っ込んで時間が経てば出来上がっていた。
多分、ソレは無理だ。
錬金区を、見ていると緑色の液体が入った小瓶を見つけた。
初級回復ポーション。
懐かしい。
吸血鬼には意味がないクソアイテムだった。
それをポケットにねじ込む。
ここから出るにはどうしたらいいか。城門から出れば良いか、あの扉が何処かにあるのか。
足元が輝く。
眩しく目をつぶるが背中に氷を押し付けられたように冷たくなる。
光が収まり恐る恐る目を開ける。
謁見の間。
赤と青の瞳が勝樹を射抜く。
「おはよう?」
声が震える。
ヤマ小さくため息をついた。
右に魔法陣と槍が置いてあり、左にはあの扉が現れた。
静寂。
ヤマは何も話さず気だるそうに再び目を閉じた。
勝樹は恐る恐る立ち上がり、扉を開けた。
「後6日で3階」
はっきりと聞こえた。
ノルマを課されていたのか。




