原点にして
光が消え視界が景色を映し出して勝樹は目を見開いた。
紫色の肌をした異常なゴブリン3匹。
鎧は着ていないが手には剣や槍を持っていた。
(転移させられた?なら!)
直ぐにポケットに手を突っ込み何処に飛ぶか分からない小さく欠けた転移石を使用する。
再び光に塗りつぶされた。
冷たい氷水をいきなりかけられたように身体が冷え込む。
視界が戻った時、全身が動かなかった。
視界には二本の足。
生気のない白い足。
「偵察は終わった?」
今までより大きく聞こえるヤマの声。
ソレもそのはずだ、玉座の直ぐ側、目の前にあるヤマの足に触れようと思えば触れられる場所に転移したのだから。
(確率でこんなところに飛ばされた?違う!干渉したんだ!じゃなかったらこんな所に転移するはずない。)
勝樹が下を見続けているのが気に入らなかったのか足の指先で顎を上げさせる。
気だるそうに頬杖をして無表情で見下ろしている。
「その布の中に入ってる物以外でも、何でも使っていいよ?」
冷たい足が勝樹から離れる。
指を鳴らすと再びあのゴブリン達のとこへと飛ばされた。
先ほどと同じ手には武器を持ったゴブリン3匹。
勝樹は無言で槍を構えた。
だが、3匹同時に相手はできない。
まずは視界を奪うことが優先だ
煙幕用の粉を地面に投げる。
魔法アイテムらしく濃い銀灰の粉が勢いよく白乳色に塔内を染め上げる。
煙幕が効いている時間に限りがある。
出し惜しみは出来ない。
ゴブリンがいた場所まで早足で近づく。
奴らの叫び声がすぐ近くで聞こえる。
《灰火の結片》という名の固定火属性ダメージを与えるアイテムを取り出しうっすらと見えたゴブリンに投擲。
赤い閃光とともに大きな悲鳴。
焼ける匂いが広がって、ゴブリンは前に崩れ落ちた。
悲鳴が煙の中で震える。
コイツラは再生する。
さらにアイテムを投げようとした時に、悲鳴に寄せられたのか複数の足音と声が集まってくる。
《業火の楔》と呼ばれる範囲固定ダメージの小型魔法陣を取り出す。
しかし投げ物と違いスクロールの使い方が分からない。
ゲーム内なら使用ボタンで済んでいたが投げても何も起こらなかった。
「ちくしょう」
灰火の結片を手に取り投げようとするが投げられなかった。
わかっていたが煙は勝樹の味方ではない。
煙が視界を奪い、奴らが何処にいる分からない。
勝樹は槍を構えた。
(あせるな。)
数回の死の経験で焦りを無理やり抑え込む。
煙の層に覆われ視覚が使えない今、感覚を研ぎ澄ます。
耳に入るのは足音、呼吸やうめき声、そして雑音の様に自分の鼓動が聞こえる。
(ここで一匹を確実に減らさなければ。)
(あせるな。)
2つの考えが渦巻く。
わかっていてもすぐには出来ない。
感覚がそのあたりに居る、何となくだけど。
そんな曖昧な感覚で焦りが勝ち思い切って近づいた。
ゴブリンが気づき彼の側面を狙って跳びかかる。
勝樹は踏み込みのタイミングで膝を落とし、柄を横倒しにして相手の上肢をすくい上げる。
腕を捕らえる瞬間、素早く結片を相手の胸元に投じる。
灰火の結片は近距離で炸裂し、炎が接触面を焼き払う。
相手は手を離して後ろへ弾かれ、地面に横たわる。熱さと痛みが四肢の動きを奪った。
同時に勝樹も腕全体に熱と衝撃。
肌が焼け広範囲に火傷を負う。
音でこちらの位置が完全にバレたのだろうか足音が近寄ってくる。
煙の中からゴブリンがはっきりと見えた。
咄嗟に槍の柄で蹴り上げを入れるが、相手はそれをかわして武器を振るう。
勝樹の腕に剣が引っかかり、鋭い痛みが走った。血が袖を赤く染める。
槍を短く持ち突く。
避けられた。
腕と腹の間を貫いた。
そのまま強引に持ち上げる腕ごと相手を持ち上げる。
柄を支点にして上半身を捻り、相手の肘関節を捻る。
だが、甘かった。
するりとゴブリンは抜け出し、距離を取る。
互いが武器を構え直し仕切り直し。
息が既に上がっている。
仕切り直しと言っても腕を負傷している勝樹は不利。
ましてや先ほどの2体は仕留めきれているのか確認していない状態でだ。
先に動いたのは勝樹。
槍で足を薙ぎ払うように振るう。
コブリンは後ろに下がるが、足を薙ぎ払うのはフェイントで突然機動を変え、ゴブリンの胸に槍の先端が狙いを定め勝樹はそのまま距離を詰める。
後ろに下がったゴブリンはまさか機動を変えて前に進んでくるとは思わなかったのだろう、勝樹が距離を詰めると言うことは自然と槍が胸に突き刺さる。
そのまま強引に貫く。
痛みで持っていた剣が地面に落ちた。
落ちた剣を拾い上げ、片手で槍を押さえ、片手で剣を振るう。
床に血が何度も飛び散る。
煙が収まり視界が晴れた。
まだ煙はのこってはいるが部屋の大部分は見えるようになった。
周りをみると三体のゴブリンの骸が転がっている。
勝樹は膝をつき、胸は激しく上下し、周囲の静けさが戦いの終わりを告げた。
短い安堵の間隙に、勝樹は思考を巡らせる。
錬金のアイテムは尽きた。
生き残れた幸運。
足元が輝く。
転移魔法の発動。
小さく微かに聞こえた『7日で3階』
白く塗りつぶされた。




