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3 出陣

 西の強国は、北の大国ほどではなかったが、我が国よりも遥かに強い軍事力を有していた。そんな強国が、帝国の恐ろしいほどの大軍勢に、なす術もなく敗退した。西の強国の王族は皆殺しにされ、国土は蹂躙された。


 帝国は、積極的な領土拡大政策を採っていた。西の強国を併合した今、西の強国と接する我が国か北の大国に侵攻するであろうことは、火を見るより明らかだった。


 私は、戦の準備を急いだ。



† † †



 西の強国が滅んでから半年も経たずに、帝国の大軍勢が我が国への侵攻の動きを見せた。私は国内の貴族に挙兵を求めた。


 帝国は敵国の王侯貴族を皆殺しにする。私の初陣の時と異なり、国内の貴族は皆挙兵に応じた。しかし、圧倒的な帝国の大軍勢に、我が国の軍勢はあまりにも数が少な過ぎた。


 私は、同盟国である北の大国の国王に援軍を求めた。盟友の彼であれば必ず助けてくれるだろう。


 しかし、盟友とはいえ彼は国王。私情だけでは動けない。私は北の大国の外交官にこう伝えた。


「貴国は、我が国と同様、西で帝国と接しておられる。もし我が国が帝国の手に落ちれば、帝国は西と南から貴国を挟撃するだろう。帝国にはそれだけの軍事力がある」


「もしそのような事態になれば、いくら大国とはいえ、貴国は窮地に立たされることになる。これは貴国の防衛戦争でもある。是非、共に戦っていただきたい」


 北の大国は、援軍を送ってくれた。なんと、国王自らが援軍の総大将としてやって来た。


 私と北の国王は、久々の再会を喜んだ。私は心の底から彼にお礼を言った。


 彼は私に笑いながら言った。


「あの大帝国に対峙するお前の国と俺の国は、一蓮托生だ。兄と王座を争った際にお前が援軍として来てくれたときの借りを、ようやく返せる日が来たよ」


 帝国の大軍勢は、我が国の西の国境近くに迫っていた。北の援軍が来たとはいえ、帝国の大軍勢は我々の倍以上。勝てる可能性はほとんどなかった。


 しかし、私はそんな内心を一切外に見せることなく、悠然と戦の準備を進めた。


 私は、私が初陣したときの父王と同じように、村人達を王都や近隣の貴族の城の城壁内に避難させると、城門を固く閉じさせ、西の国境へ向け出陣することにした。



† † †



 出陣前、王宮の王妃の部屋で王妃と2人きりになった私は、王妃を抱き締めた後、静かに言った。


「この戦い、勝つのは難しい。もし敗戦の報を聞いたら、急ぎ北の大国へ落ち延びてくれ」


 王妃は、ニッコリ笑って言った。


「国あっての王族。王あっての王妃です。万が一、貴方(あなた)が討ち死にし、国が滅びれば、私も貴方や国と運命を共にします。勝利の報をお待ちしておりますわ」


「……すまない」


 私は王妃に優しく口づけをすると、王妃の部屋を後にした。


 出陣に当たり、私は末っ子で唯一の男子である息子を戦いに連れて行くことにした。


 息子は15歳。私の初陣とほぼ同じ年齢だ。まだ幼く、城に残すべきか迷ったが、この戦いに負ければどのみち命はない。


 私は、この存亡の危機に王がどう行動すべきかを身をもって息子に伝えることにした。そう決めたとき、私は、私の初陣に当たり父王が同じ決断をしたことを思い出した。


 息子は、出陣できると聞くと、興奮した様子で私に言った。


「父上、初陣をお認めいただき有り難うございます。王子の名に恥じぬ活躍が出来るよう頑張ります!」


 まるで、昔の自分を見ているかのようだった。私は威儀を正して息子に言った。


「蛮勇は無用。私から決して離れるな。私の一挙手一投足を己の目に焼きつけよ」


 図らずも、私はあの時の父王と同じようなことを息子に言った。


 息子を死なせたくない。今すぐにでもどこか安全な場所へ避難させたい。しかし、王の責務として、この危機に王が何をなすべきか、それを次期国王たる息子に伝えなければならない。


 胸が張り裂けそうだった。父王も同じ気持ちだったのだろうか。私は、過去の私と同様、初陣への期待に胸を膨らませる息子を見ながら、父王の当時の心情を思いやった。


 我が国と北の大国の連合軍、後に「東方連合軍」と呼ばれる軍勢は、王都を後にした。


 王都の城壁から、王妃をはじめとした国民の多くが必死に手を振ってくれた。


 私は、城壁で手を振る彼ら彼女らの命運が自分の双肩にかかっていることを噛み締めながら、軍勢を進めた。 

続きは明日投稿予定です。

明日完結予定です。

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