#Another side 突入部隊
――数時間前。S⁶部隊が天の光信仰教会の本部に到着。
突入後、スキルホルダーの信者たちと交戦。
教会側のスキルホルダーは戦闘の素人ばかりだ。だから、作戦は問題なく進行すると、そう思っていた。
しかし、祝福の儀式を受けた彼らのスキルは出力が高く、スキルを持たないエージェントたち――オーガ率いる戦闘班――による武力を用いた援護が有ってもなお、S⁶側は思わぬ苦戦を強いられる事になった。
本丸である思念集積体“鏡写しの太陽”、並びに教祖道道ヶ原巡は地下に居る。
しかし、そこへ辿り着く前にS⁶の戦力の殆どは信者による足止めをくらい、地下にまで辿り着くことが出来たのはウォールナット、ボス、ヴァイオレットの三名だった。
撤退も考えられたが、もはや全軍で戻るにも難しい。
それでも、勝機は在った。
教祖である道道ヶ原巡は、スキルホルダーではない。教祖であるが故に、全てのメカニズムを真に理解してしまっているが故に、スキルが発現しないのだ。
だからこそ、誰でもいい。エージェントがたった一人でも教祖の元へ辿り着ければ、いとも容易く対処できる。
思念集積体という大規模スキルも、理論上は教祖さえ叩けば、信者たちから集められる信仰が断たれ、霧散させられるはずだ。
やはり、進み元を断つしかない。
そうして立つ塞がる障害を乗り越え、進んで行く三名だったが、しかし――。
「ぐッ……がはッ……」
「「ボス!!」」
敵の攻撃を受けて、ボスが負傷。
手で出血を抑え、壁にもたれ掛かる。
来海クナイを飛ばし、すぐさま発砲した敵を刺し、無力化。
それが最後の一人だった様で、僅かな間の静寂が訪れた。
しかし、やがて遠くから多数の足音。更なる敵が迫る。
二人はすぐにボスの元に駆け寄った。
「大丈夫だよお、来海ちゃん。特性の防弾着のおかげで、貫通はしてない」
今回、S⁶のエージェントたちは来海と同じMGC製の防弾インナーを着用していたが、それも弾と刃の貫通を防ぐ事は出来ても完全にダメージを抑えられる訳では無い。
「僕の事よりも、次の敵さん達が来ちゃう前に、君は先へ進むんだ」
「でも、ボスが……」
ボスはこの負傷では戦えないだろう。
そんな状態で敵の前に置いていったら、どうなるかは目に見えている。
すると、ヴァイオレット――真白先生が口を開く。
「ここはわたしに任せてください」
「真白先生だってスキルホルダーじゃないのに、たった一人でなんて……」
「大丈夫、先生だって元エージェントです。信じてください」
真白先生は来海の手を握り、真っ直ぐと瞳を見つめる。
足音が迫って来る。迷っている時間は無い。
ここで足を止めては、ここまでの道を切り開いてくれた仲間たちの犠牲も無駄になってしまう。
「……分かりました。先生、ボスをお願いします」
「はい。お任せください!」
そうして前を向く来海の背に、ボスの言葉が投げかけられる。
「エージェント:ウォールナット、最後の、命令だ。教祖を討ち、生きて帰って来い――」
来海が振り返れば、ボスは壁にもたれ掛かったまま、敬礼の姿勢。
立ち止まり、敬礼を返す。
「はい、ボス。必ず」
それを最後に、振り返る事無く、地下の最奥部へと走った。
やがて、背後で戦闘の音が聞こえて来る。
真白先生がボスを守りながら、戦っているのだ。
そして、最奥部の扉が見えて来た。
しかし、すんなりと通してはくれない。来海の前にも、やはり最後の砦は立ち塞がる。
「どきなさいよ!! 邪魔しないで!!」
懐から暗器を抜き取り、放つ。
念動力によって縦横無尽に動き回る働き蜂たちの毒針が信者たちを刺し、次々と眠らせて行く。
信者たちの反撃によって、来海も傷を負う。
激しい攻防。
そうして人の波を切り分け、ボロボロになりながらも、来海はただ一人最奥部へ辿り着いた。
手にはクナイ。これが最後の一本だ。
でも、一本あればいい。それで充分だ。
扉を開け、この一本を教祖に放つだけでいい。
言葉はいらない。会話を交わせば術中に嵌ってしまう。相手の思うつぼだ。
一度深呼吸をし、そして、扉を開け放ち、中へと飛び込む。
奥に教祖の姿。
「これで、終わ――」
その時、来海の視界に入ったのは教祖の後姿だった。
S⁶に突入されたという報は入っているはずだ。そして、入室して来た来海の存在も分かっているはず。
なのに、後ろを向いて、空中のナニカを見ている。
――どうして、教祖はこちらを見ていないの? 一体、何を見ているの? そこに、なにが在るというの?
そんな疑問が、来海の脳裏を過った。
過ってしまった。
一度動き出した身体はすぐには止まらない。
同時に、クナイを投擲。
「――りよっ!!」
念動力によって、弧を描きながら教祖を目掛けて飛ぶ。
しかし、突然の灼熱が室内を包み込み、同時にクナイは熱風に煽られて狙いを反れ、地に落ちる。
「……おや? お客様ですか」
教祖――道道ヶ原巡は振り返る。
その背には、まさに太陽の如き炎の塊。
道道ヶ原は落ちつき払った様子で、まるで迎え入れるかのように両の腕を広げる。
――やられた!!
その一挙手一投足に、意識を鏡写しの太陽に持って行かれてしまった。
分かっていても、回避できない。
言葉を交わさなくとも、動きで、視線で、意識を誘導されてしまう。
その偽りの神は思念集積体。
意識し、認識してしまえば、そこに存在してしまう。
来海の最後の刃は撃ち落とされた。
初手で躓けば、イニシアチブは相手に在る。
道道ヶ原の武器は話術や身振りを用いた暗示だ。
会話してはいけない。その一挙手一投足を意識してはいけない。この瞬間が一秒長引くだけでもまずい。
それを理解しているのは誰よりも道道ヶ原自身だ。
来海が落としたクナイを再びスキルの対象範囲内に入れる前に、間髪入れず口を開く。
「――改めまして、天の光信仰教会二代目教祖、道道ヶ原巡です。どうやら、他のお仲間たちは、家族たちと遊んでくれているようですね」
その言葉に呼応して、鏡写しの太陽が更に強い熱風を放つ。
来海は腕で顔を覆い、なんとか踏ん張るが、これでは近づけない。
「――ですが、残念ながら、少し遅かったですね。
家族たちの信仰、そして火室桐祐君のおかげで、神はその存在を確固たるものとし、偽りの神は真なる神へと覚醒を果たしました。
鏡写しの太陽は、真なる太陽を喰らい、成り替わるのです!
――さあ! 我々に――いや、私に! 神の祝福を!!」
地下室全体が燃え上がる。
そして、道道ヶ原自身も炎に包まれる。
真っ赤に染まりながらも、高らかに笑う若き教祖。
信者たちの、スキルホルダーたちの思念が、信仰が、寄り集まり形を成す。
思念集積体、偽りの神であろうとも、全ての人類がそれを認識してしまえば、それは存在するも同義だ。かつての天の光現象と同じ様に。
もはや来海だけの力では止められない。
万事休す。
――。
その時、来海が心の内で呼んだのは、誰の名だっただろうか。
決着は見えたかに思われた。
しかし、次の瞬間。
「――は?」
眼前で起こった出来事を、両者共に信じられなかっただろう。
何かの間違いかと思っただろう。
しかし、実際にそれは起きた。
突如、“地下空間の天井が消失した”のだ。
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