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【完結】六専特区の一般生徒《スキルホルダー》 ~20XX年、光の雨によって超能力に目覚めた子供たち~  作者: 赤木さなぎ


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#060 来海視点③ 最良の一手

 私が受け身を取って体勢を立て直すとほぼ同時に、桐祐(きりゅう)も大気操作で風祖起こして、ふわりと着地。

 

 ――全く、何でもありね。

 

 今の彼は発火能力(パイロキネシス)、大気操作、透明化、瞬間移動、一人で4つもスキルを有している。

 もしかすると、私の知らない所で他のスキルも得ているかもしれない。

 第六感症候群は脳の異常発達。それなのに、そんな数のスキルを同時に発症して、果たして身体は耐えられるのだろうか。


 一刻も早く、彼を止めなければ。

 幸い、どれだけスキルを有していようと、所詮は人間だ。

 私の働き蜂(クナイ)の一刺しで沈静化すればいい。

 

「はあっ!!」


 両手での投擲、八方向からの攻撃。

 念動力(テレキネシス)で全てを同時に操作し、私の指令のままに縦横無尽に舞い踊る。

 しかし――、


 「消えた!?」


 飛翔する刃は対象を捕える事無く、空を切る。

 桐祐はじんわりと景色に溶け込むように輪郭から色を失って行き、先程まで居た空間から消え去った。


 ――透明化からの瞬間移動、スキルの合わせ技ね。


 透明化だけではクナイは避けられない。瞬間移動だけではすぐに補足されて念動力(テレキネシス)で軌道を曲げて対処される。

 しかし、両方を合わせる事で私の手を完全に対処した。

 

 彼の戦いには彼自身の知能と知識、技術の全てが使われている。

 操られていても、相手は桐祐(きりゅう)自身。彼の意志に反して、身体だけが暴走を続けているのだ。


「――でも、ごめんなさい。あなたのやる事なんて、お見通しよ」

「ぐっ……」


 私の背後で、小さく唸る苦悶の声。

 振り返れば、そこには蜘蛛の糸に絡め捕られた桐祐の姿が有った。


 何度か見せた手の内だが、だからといって対処出来るかと言えば別の話。

 私が初手で放ったクナイは元から回避される事を想定した一手だった。

 尾から不可視の極細硬質ワイヤーを伸ばし、予め蜘蛛の巣の様に周囲に張り巡らせておいた。

 

 仮にワイヤーの存在を分かっていても、手に入れたばかりの瞬間移動で転移先をコントロール出来るはずも無い。

 私の予想は的中。彼は私の背後に瞬間移動してのカウンターを狙ったがしかし、ワイヤーに絡め捕られ、全身の表皮を浅く切り刻まれ、そのダメージで透明化も解除された。


 桐祐は荒い呼吸で肩を震わせながら、次の手札を切った。

 蜘蛛の糸に伝線する様に火の手が回り、硬質ワイヤーの巣は焼却されていく。


 ――今度はいつもの発火能力(パイロキネシス)ね。


 視界に入れたあらゆる対象を燃やす。彼のそれは高出力であるが故に、発火というよりはもはや焼却能力と言ってしまった方が実体に近い。

 今思えば、それもプラスエスの実験によって拡張されたベータのスキルを喰らって得たスキルだったからこその高出力だったのだろう。


 私は既に、最初から桐祐の視界に入っている。

 やろうと思えば、一瞬で決着は付いてしまう。

 でも、彼はそうしない。


 ビルからの落下に対して大気操作で私を助けてくれた様に、内に生きている彼の精神が、意志に反して動く肉体と今も戦っているのだ。

 彼の強固な意志が、致命的な攻撃だけは放つまいと抗っている。

 私はそれを信じて、戦うのみ。


 次のクナイを引き抜く。

 しかし、その瞬間――、


「あっつ……!!?」


 私は手に取ったクナイをすぐさま取り落とした。

 地面に落ちる前に、燃え尽きて煤となる。


「ふぅ……。やっぱり、甘くは無いわね」


 直線私自身を焼こうとはしない。だからといって、発火能力を出し惜しむ訳でも無い。

 彼の視界内に入っている限り、私が引き抜くクナイの悉くは焼却されてしまうだろう。

 駄目だ。打ち合い続ければ彼が力尽きるよりも早く、こちらの残弾が尽きてしまう。

 もはや麻痺毒には頼れない。


 鎮圧はほぼ不可能に近い。

 なら、どうやって彼を正気に戻すか。

 

 視線が交差し、一瞬の間見合う。

 よく見れば、桐祐の身体から煙が上がっている。


 ――まずいわね。抑えつけているスキルが、自分の身を焼こうとしている。


 残弾どころの話ではない。時間も無い。

 桐祐の精神がスキルを抑え込めなくなって私が焼かれるか、彼がその強固な意志のまま自身を焼き尽くすかだ。

 

 彼の精神は今、眷族とかした肉体の奥深くに沈められているだろう。

 祝福の儀の支配を解くには、それよりも強い支配、またはそれを上回る程の衝撃。

 それを可能とする程のダメージ、衝撃。四つものスキルを保有している桐祐を相手に、そんな事が? 今やメインウェポンのクナイもまともに役に立たないのに?


 ――いえ。賭けだけれど、まだ手はあるわ。


 スキルを四つも有しているからこそ、そして今他でもない私が桐祐の相手しているからこそ、見える一筋の光明が有った。

 

 桐祐は自身の身が焼き切れる覚悟で、私を守ろうと暴走する肉体に抗っている。

 なら、私も全てを懸けて答えるべきだ。ベッドするチップは、この身一つ。


「――帰って来なさい! 桐祐!!」


 もう一度、クナイを引き抜く。


「くっ……!!」


 しかし、当然それらは全て焼却される。

 だがそれは勿論桐祐の視線を誘導する為の囮だ。


 手を焼く熱に耐え、精神を集中。

 大丈夫。スキルのコントロールだけなら私の右に出る物はいない。


 私が念動力(テレキネシス)で操作するのは、忠実な働き蜂ではない。

 周囲に転がる石やゴミ、瓦礫、そんな有象無象たち。


 流線形ではないそれらは空気抵抗を受けて、途中で軌道を反れたりと扱いが難しい。

 しかもそれを同時に数十個。いつもの様に真っ直ぐと対象を捉えてはくれない。

 

 しかし、それでいい。桐祐の視界に入りきらない360度全方位からの攻撃。

 焼却が追いつかない桐祐が取る手は、1つ。


 彼の姿は目の前で輪郭から色を失って行き、そしてふっと消えた。

 読み通り、最初と同じ透明化と瞬間移動の合わせ技。

 

 なら、次に現れる場所は――、


「――後ろっ!」


 今回は硬質ワイヤーによる蜘蛛の巣は無い。

 私を守る物は存在しない。


 ――でも、それでいいの。これでいいのよ。


 私は振り返り、真っ直ぐと正面を見据える。

 そして、戦場であるにも関わらず無防備に両腕を開き、立つ。


 「うっ……ぐっ……」

 

 見えない何かがぶつかり、全身に衝撃を受けるとともに、私はその場に倒れた。

 同時に、私はその姿の見えない彼の後ろに広げていた腕を回す。

 じんわりと、その姿が色を帯びて行く。


 地面に横たわる私の上には、彼が居る。

 私の腕は彼の首に回されていて、その顔が良く見える。

 瞳の奥には、確かな色。そして、そこから流れる一筋の涙。


「頑張ったわね、桐祐」


 私はそのまま、首に回した腕を思いっきり引っ張って、彼を引き寄せ――唇を、奪った。


 彼の目が驚きに見開かれる。

 内心してやったりとほくそ笑み、私は目を閉じる。


 彼の精神に反して、肉体は未だ支配を受けたまま。

 私を襲い、吸血行為によってスキルを奪おうとしてくる。

 口の中に鉄臭さが広がる。

 

 ――全く、初めてが血の味って、ほんっと最悪……。


 心の内で毒づく思考とは対照的に、きっと今の私は穏やかに笑っていた事だろう。

 決して離さない様に、首に回した腕を強く締め上げる。

 

 すると、やがて彼は私の腕の中で、苦痛に悶え暴れ始める。

 しばらく無理やり抱き締めて抑えつけていたが、いくら鍛えていると言っても男と女、その筋力差には抗えない。

 すぐに彼は私の腕を振りほどいて、苦悶の表情で地べたを転がり回り、嘔吐(えず)きながら胃の中物を吐き出す。


「……女の唇を奪っておいて、その反応は酷いんじゃないかしら? 私だって、傷付くわよ?」


 私は押し倒された体勢のまま、意地悪くそう嘯く。


 彼は私の血を摂取するというルーティーンを経て、私のスキルを喰らおうとした。

 しかし、それは成し得なかった。


 拒絶反応を起こした桐祐は、全身を掻き毟る。


「あなた、四つもスキルを食べて、自分の脳が耐えられると思っていたの?」


 考えてみれば、簡単な話だ。

 第六感症候群――スキルはたった一つでもそれを制御できなくなる人だっている。

 それを発症し身をもって体験した者なら、神の祝福だなんて絶対に言えない、ただの病。


 四つが均衡を保って彼の中に存在出来た事自体が奇跡のような物。

 そこに加えて、五つ目を得ようだなんて強欲だ。

 しかも、私のスキルはこれまで桐祐が食べて来たタイプのスキルとは真逆の、精密なコントロール特化。


 早い話、彼は食べ過ぎたのだ。脳のリソースをオーバーした。

 そこに駄目押しで体に合わない味の食事(スキル)を腹にぶち込めば、過食でリバースしても仕方がないだろう。


 でも、それだけでは足りなかったかもしれない。

 ただ血を吸わせただけでは、支配を打ち破る程の衝撃という意味ではもう一押し足りない可能性も有った。

 だから、もう一歩踏み込むための、最良の一手。

 キスという劇薬を用いたショック療法。


 

 やがて、桐祐は胃の中の物全てを吐き出すと、暴れていたのも収まり、ぐったりとその場に倒れ込んだ。

 荒い息遣いが聞こえて来る。

 

 私は身体を起こして、彼の傍に寄る。

 すると、うつ伏せだった彼は寝返りを打ってこちらを向いた。

 

 見下ろしたまま、声を掛ける。

 

「おはよ、桐祐。目覚めのキスの味はどうだったかしら?」

この作品が少しでも面白いなと思って頂けましたら、画面を下にスクロールして[ブックマーク追加]と[評価の☆☆☆☆☆]で応援して頂けると今後の執筆の励みになります!

星は1~5まで、思った通りの評価を付けて頂ければと思います。

軽い気持ちで大丈夫なので、是非よろしくお願いします!

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