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【完結】六専特区の一般生徒《スキルホルダー》 ~20XX年、光の雨によって超能力に目覚めた子供たち~  作者: 赤木さなぎ


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#058 桐祐視点① 祝福

(――ここは……?)


 意識が浮上すると、俺は知らない場所に居た。

 薄暗く、地下空間と思しき場所。

 視界の範囲内だけでも供物台の様な儀式めいた様々な物が見える。

 

 俺はどうやら椅子に座らされている様だが、拘束されている気配は無い。

 それなのに、どういう訳か身体は全く動かないのだ。

 

 まるで自分の身体が自分の物では無くなったかの様。

 こんなにも冷静に思考出来ているにも関わらず、身体へ送られる命令だけがシャットダウンされているみたいだ。


 (しかし、暑いな……)


 じっとりと肌に汗が伝う。

 しかし動かせない身体は不快感をフィードバックしてくるだけで、その汗をぬぐう事も出来ない。

 まだ寒い時期だというのに、この空間だけ陽射しの照り付ける夏の季節になったかの様に、嫌に暑苦しかった。


 すると、コツコツと靴音が響いて来る。

 その反響音からして、ここはかなり広い様だ。

 やがて足音は俺の目の前で止まった。


「お目覚めですか、桐祐(きりゅう)君」


 金髪のおかっぱ頭、神父の様な黒服。

 天の光信仰教会の教祖、道道ヶ原巡どうどうがはらめぐるだ。

 俺の頭は項垂れる様にやや下向きに固まったままで、何とか視線だけを動かしても奴の表情は読み取れない。


 俺は言葉を発しようとするが、口も自分の意志で動かせなかった。

 道道ヶ原は勝手に言葉を続ける。


「動けないでしょうが、我慢してください。それは君の無意識下にかけられた暗示――言わば、君自身の思い込みの様なもの」

 

 俺の思い込み? この金縛りが?


 俺の困惑を読み取ったのか、道道ヶ原は笑う。


「そうですね。折角なので、少しお話をしましょうか。君のお母さま――絵里さんについて」


 両手を広げる大げさな身振り手振りが視界にチラつき、続いてコツコツという靴音が俺の周囲を回る様に動く。


「ご存じの通り、絵里さんはうちの敬虔な信徒でした。彼女はその身に天の光を受けていました。だから、産まれて来る子は神通力を宿した神の子だと期待されていました。

 ですが、残念な事に産まれた子――つまり桐祐君は、すぐに神通力を発現させる事は有りませんでした」


 自分の母親が宗教に傾倒していたなんて話をつらつらと聞かされて、気分が悪い。

 

 それに、道道ヶ原の言っている事はこの時点で滅茶苦茶だ。

 生まれたばかりで神通力――つまり第六感症候群の発症を確認出来ないのなんて当然の事。平均して物心ついて以降の感情の動きに呼応して活性化するとされている。

 これは学院のカリキュラムで使う教科書レベルの話だ。

 

「絵里さんは自分が神の寵愛を受けられなかったのではと危惧し、赤子の桐祐君を連れてうちに駆け込んで来ました。そして、『うちの子に、鏡写しの太陽の祝福を』と仰いました」


 道道ヶ原の語りの合間にも、靴音や衣擦れ音が嫌に耳に障る。

 少しずつ、少しずつ、深淵に呑まれて行く様な感覚に陥る。


「当時は私の父が教祖を務めておりましたが、私も次代の教祖となる者として祝福の儀に同席させて頂きました。当時の私は祝福を受けるあなたを見て思いましたよ、羨ましいと。

 だってそうでしょう? 神通力なんていう人間を超越した素晴らしい力、欲しいに決まっています!」


 この時だけ、道道ヶ原の上っ面の言葉の中に僅かな感情が見て取れた。

 それは無邪気な少年の様で、その年齢と乖離した様には異様な雰囲気があった。


「でも、駄目なんです。私は鏡写しの太陽と、祝福の儀式の真実を知っている。だから、暗示にかからない。真に思い込めない。何も知らない無垢で敬虔な信徒のみが祝福を受けられるのです」


 道道ヶ原の言葉が耳から這うように滑り込んでくる。

 それに伴って、感じる熱がだんだんとはっきりとして行き、暑苦しいなんてレベルではなくなってきた。

 まるで炎の中に居るみたいだ。


 そして、気付いた。

 “この熱源は俺の背後に在る”と。


「さあ、そろそろ感じられる頃では有りませんか? ご覧なさい! これこそが、我々の神――“鏡写しの太陽”のお姿です!!」


 しまった。

 これまでの道道ヶ原の声が、言葉が、一挙手一投足が、その全てが暗示の為の所作だったのだ。

 俺は“そこに鏡写しの太陽が存在する”と思い込まされてしまった。そして、もうそれに抗えない。


 俺の背中を焼くかの様に存在する圧倒的熱源、まるで太陽がそのままそこに存在するかの様な、炎の塊。


「いやあ。父の代から、ここまで育てるのに苦労しましたよ。鏡写しの太陽は信徒たちの想いに応えて、地球上の熱を少しずつ奪って肥大化して行くのです。我々天の光信仰教会が大きくなればなるほど、その肥大化は素早く進行していく――。

 そして、もう間もなく覚醒の時を迎えるでしょう。最後のピースは――あなたに埋めてもらいましょうか」


 第六感症候群とは、天の光エネルギーが産み出した超能力だ。

 それは感情の高揚によって出力を高め、逆に精神を研ぎ澄ませ落ちつき払う事でコントロール精度を高める。

 この性質からも分かる通り、第六感症候群とは感情的、精神的な側面が強く現れる症だ。

 それは人間の進化、脳の異常発達だとも言われている。


 ――であれば、だ。

 道道ヶ原の言葉の通り、宗教に強く傾倒し、自分が神の祝福を受けたのだと信じ込んでしまった“無垢で敬虔な信徒”は、天の光エネルギーを注入さえすれば、脳の思い込みによって実際にそう在ろうと変化し、進化し、第六感症候群を発症するのではないだろうか。

 単純な事だ。そこに天の光エネルギーさえあればいい。後は暗示をかけて脳を騙せば、それで忠実な僕となるスキルホルダーの完成だ。


 そして、この鏡写しの太陽だ。

 こんな物理法則すらも無視した、突然そこに現れた炎の塊。

 これだって、俺がさっきそう思い込まされて出現した物だ。つまり、先程道道ヶ原が言った通り、この太陽は信者たちの思い込み――その“思念集積体”だ。

 

 信者たちは天の光エネルギーをその身に宿している。

 その場に居るスキルホルダー全員の脳を騙して、そこに炎の塊のカタチを取った神が存在すると思い込ませて、彼ら全員のパブリックイメージとして、太陽擬きを神格化した。

 つまり、鏡写しの太陽の正体は、不特定多数のスキルホルダーの心を写し、発現した大規模スキル。

 

 こいつは、俺にもその神を認識させる事で覚醒――つまり、この炎の塊を世に解き放とうとしている!

 

 「――さて、話を戻しましょうか。これまでの話の中で、おかしな点があったと思います。そうです、絵里さんは元から天の光エネルギーを浴びていた。

 つまり、あなたは最初から天の光エネルギーをその身に宿していたのです。

 それでも、神通力の発現を焦った彼女は神通力が発現しないと教会に駆け込んできた。普通はそのまま追い返すでしょう。

 しかし父は思った訳です。“既に祝福を得ている子に対して、もう一度祝福を与えればどうなるのだろうか”――と」


 それは、プラスエスのマッドサイエンティスト、ナンバーツーの思想そのものではないか!

 ナンバーツーはシロのスキルを元に作ったアルファベースのウイルス薬を、そのままシロに投与して二重発症による出力の過剰拡張をしようとしていた。

 まさか、その実験と同じ事を俺に?


「結果は大成功。元のスキルが何だったのかは定かでは有りませんが、桐祐君の神通力は見事変質しました。その力がなんなのか――それは、君自身がご存じでしょう?」


 パンと、道道ヶ原が柏手を鳴らす。

 すると、その音は頭の中で木霊し、俺の身体はひとりでに動きだした。


 くそう、駄目だ。抗おうとしても、暗示にかけられ眷族にされてしまった身体はいう事を聞いてくれない。

 まるで自分を他人として俯瞰しているみたいな嫌な感じだ。


「さあ! 神から授かった祝福を思う存分振るい、己が欲を解放するのです!」

 

 何が祝福だ。こんなもの、ただの病だ。

 大体、俺に欲なんて、そんなもの――しかし、俺の心とは裏腹に、身体は動く。


 鏡写しの太陽の眷族となってしまった俺の身体は、欲に駆られ、外へ向かって歩いて行く。

 

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星は1~5まで、思った通りの評価を付けて頂ければと思います。

軽い気持ちで大丈夫なので、是非よろしくお願いします!

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