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シュシュ・フラマンは悪女の系譜 《連載版》  作者: 三條 凛花
第1章 シュシュ・フラマン
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7.シュシュ・フラマン(求婚編)

 連日続いている重たい雨が、秋を連れてきたようだ。目の前には、きらきらと夜空に輝くようにそびえ立つ、巨大な駅。駅周辺の建物たちが放つ美しい光を反射して、きらきらと輝いている水たまりを眺める。


 ついこの間まで半袖のワンピースでも汗ばむくらいだったというのに。


 空と空をつなぐ月船の停車場所なのだから、当たり前なのだけれど、そこは高度があり、空気が薄く、そして地上よりさらに気温が低い。


 ──そう考えて、ふと、以前もこんなことを考えたなと苦笑した。





 私がここにやってくるのは実に二年ぶりのことだった。


 仕事を辞め、部屋を引き払った私は、家族にもなにも告げずに国を出た。ほかの大陸にある上級学校に留学したのだ。そのまま向こうで暮らすつもりでいた。




 レックスのことはすっかりふっきれたつもりでいたのだけれど。


胸の下あたりが鈍く痛むのをぐっと力を込めて押さえた。はっはっと短く浅い呼吸を隠すように。反対の手は無意識に肩のあたりにやってしまい、長かった髪がそこにないことに気がつく。


 髪の毛は、レックスと別れたあとからずっと短いまま。男性と同じように短くしたら、女性らしい服が似合わなくなって、いくつも手放すことになった。


 髪の毛は水色に染めて、地毛のミントグリーンを隠した。母譲りの桃色の瞳には、度が入っていない魔眼(コンタクト)をつけて見えないようにしている。






「ねえ、シュシュちゃん。なにかいやなこと、あったでしょう?」


 幼かったころ、どんなに隠していても母に見抜かれてしまうのが不思議だった。おとなになってから理由を聞いたら、母はふふっとあどけなく笑って「くせだよ」と言った。


「シュシュちゃんはね、緊張しているとき、不安なとき、悲しいとき……。左手で髪の毛をくるくるもてあそぶくせがあったの」


 母が私を見つめる瞳には、いつも慈愛の色が浮かんでいた。疑うことなく母のことが大好きだった。


 でも、あのあと自分で調べて見たけれど、やはり調査結果と同じく母の義家族と、私の実父は亡くなっていた。詳しくは伏せられていたけれど、事件性があるということだった。


 そして、当時の新聞に姿が残っていた男性の、珍しい色合いの髪の毛を見て、──この人が父なのだと認めざるを得なかった。


 だから国を出たのだ。




 先祖が侯爵だったという人の本を読んだ時、その内容にはどちらかというと疑いと嫌悪感を持っていた。


 でも、悪女はチュチュ・コスメーアだけではなかった。その系譜はたしかに続いていたのだ。私の中に。──たぶん、いろんな人の人生を壊しながら。


 大好きだった母のことが空恐ろしくなった。

 血の繋がらない母を育ててくれた家族を壊し、命を失うきっかけをつくっていながら、新しい家庭を築いてにこにこと幸せに暮らしている。


 これが罪じゃなければなんなのか。どうして笑っていられるのか、私にはわからなかった。


 何より、自分という存在そのものが、罪そのものだというような気がして、自分のルーツになるようなものを隠したくてしかたがなくなったのだった。








 本当なら私は、この国に戻ってくるつもりはなかった。

 けれども、留学先はアウトリーフ国とは全く別の環境だった。そこにはいまだに王制があり、身分があった。女性にも学習の機会は与えられていたけれど、そこで目立つことは歓迎されなかった。



 他国の平民だということでずいぶん嫌な思いもした。

 しかも男性のように短い髪の毛に、その国の女性は誰も履かないパンツスタイルだった私は、異端だった。友人と呼べる人もできなかった。



 レックスのことを振り切るように勉強していたら、飛び級で卒業することになってしまった。周りからも睨まれていたし、いくら結果を出したとしても、他国の平民女性がつける職業はごくごく限られていた。


 幸い、出していた論文が各大陸の有識者の目に止まり、道が開けそうだと安心したが……その中のひとりが、ミリア・オパルス会長。世界屈指の出版社を経営する女性である。



 そして今日、あの曰く付きのレストランへ私を呼び出した張本人でもある。





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