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シュシュ・フラマンは悪女の系譜 《連載版》  作者: 三條 凛花
第1章 シュシュ・フラマン
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5.シュシュ・フラマン(婚約破棄編)

 ひとしきり泣いたあと、手鏡をのぞくとひどい顔だった。目の周りは黒ずんでいるし、目も、鼻の頭も赤い。


「あーあ、こんな顔、あきらかに泣きましたって感じだ」


 レックスだったらきっと「みっともない」と言うだろう。



 首都空中駅まで歩く。ホームが近づくに連れてどんどん人が増えてきて、流されるように進んでいく。人混みの中、勘違いかもしれないけれどちらちらと視線が気になった。


 ここはルナシップの発着駅で、遠方や国外にしか行くことができない。地上に降りる昇降車に乗り、それからまた駅まで歩いて、ルナランに乗り換えたが、もう最終の便に近かった。


 ルナランは正式名称を月光機関車といい、こちらもまた月の光を魔導石に込めたものをエネルギーとした機関車である。馬車の代替品として、解放王ミューゼットの存命時に開発されたものだが、今も近距離の移動には使われている。


 ルナランに揺られて二時間。駅で降りて二十分ほど歩き、家に着いたのは、日付が変わったあとだった。


「長い一日だった……」


 入り口の門を開け、集合住宅(アパルトマン…)の一室に入る。


 部屋の中はずいぶんがらんとしていた。レックスとの結婚のためにものをかなり処分したからだ。彼からは、母親との会食のあとすぐに引っ越してきてほしいと言われていたから。


 どんどん嫌な想像とか、過去のきらきらしい思い出とかが湧き出してくる。私は行儀悪く靴を脱ぎ捨て、脱衣所につく前に服もすべて投げつけるように床に巻き散らかした。熱いシャワーを浴びてもう一度泣いた。



 吐きそうな気持ちの悪さと、空腹とがないまぜになって襲ってきた。


「こういうときは、でも、食べたほうがいいよね」


 私は誰に言うでもなくつぶやくと、冷蔵庫を開けた。


 冷蔵庫の中身もやはりほとんど空っぽで、卵ときのこしか入っていなかった。


 お湯を沸かしている間にきのこを薄切りにする。スープの素と、調味料ときのこを入れて煮る。卵を流し込む。


「細く流し込んでね、すぐにかき混ぜないの。いち、に、さん。少しだけ待ってね。それから混ぜるとふわっとするのよ」


 これは、母が子どものころから作ってくれていた、泣きたいときのスープ。


()()()()()が……つくってくれたの」




 口に含むと、熱々で、舌を火傷したかと思った。今度は慎重に、ふうふうと息を吹きかけながら飲む。


 気持ち悪さも空腹も、少しずつ満たされていった。それまでの地に足がつかないような、ふわふわした怒りが収まってくるのを感じた。──もう終わったことなのだ、と。


 スープを飲み終え、キッチンでお皿や鍋をきれいに洗ったあと、そのままの勢いで袋を取り出した。


 新居に運ぼうと箱詰めしていたものを床にばらまく。その中からレックスにもらったプレゼントだったり、少しでも彼を想起させるようなものををすべて集める。


 見ないようにして袋に詰める。


 疲れたし眠いし、今すぐに寝台に倒れ込みたいくらいだったけれど、これは、今日やらなければいけない気がした。そうじゃなかったら一生引きずってしまいそうで。そう思うくらいには長い時間を、私はレックスと一緒に過ごしてきたのだ。






*シュシュのメモ(日本語訳)*


◆泣きたいときのスープ


水……200cc

卵……1個

椎茸……1~2個

鶏ガラスープの素……小1/2

醤油……小2


水溶き片栗粉


・塩コショウで味を整える。

・好みでラー油や青ネギ

・えのきにしても良い



※作中(100年後パート)の文化ですが現代日本と同程度~それ以上の水準です。

魔法・異世界の知識があるため飛躍的な発展を遂げていますが、異世界の知識でカバーできていない部分は未発達だったりします。でこぼこな感じの発達です。

料理系は異世界人と開発し、かなり現代日本レベルに近い状態で、固形タイプのスープの素がある設定で書きました。

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