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天女と魔年 前編 第九話 継承

 私の隣でマクシミリアンは立ち上がった。腰に下げていた斧のような大きな刃のついた剣を鞘から抜き放つ。それは飾りではない。

 狩りをしているから、武器は私も扱ったことがある。これは本物の剣だ。

 口をひきつらせそうになったが、マクシミリアンが赤い瞳で私を睨みつけてきたのが分かった。きっと、余計な態度をとるな。ということだろう。


「では、叔父上。隣の部屋に。」

「わかっている。」

 オーレリアンは立ち上がると、隣の部屋に続く扉を開いた。

 オーレリアンに続いて、マクシミリアンが入っていく。私もマクシミリアンから、彼のすることを見ているように言われているので、このままこの部屋に一人留まっているわけにはいかない。彼の後を続いて隣の部屋に入った。


 隣の部屋は寝室のようだった。部屋の中央より右寄りに寝台が置かれている。

 オーレリアンは既に寝台に横たわり、その横にマクシミリアンが剣を持って立っている。

 マクシミリアンは寝台にあがり、オーレリアンに向かい合うように両ひざをついた。

 そして、自分の目の前で剣を横に持ち、刃先をオーレリアンの首にあてがう。

 少しでも手が動けば、オーレリアンの首に赤い跡が着くだろう距離だ。どう見ても、これから、オーレリアンの命を自ら取ろうとしているとしか見えない。


「マクシミリアン。貴方何を。」

「魔王の座を継承するのに必要なのだ。リシテキア。」

 マクシミリアンの代わりに、目を閉じたオーレリアンが答えてくれた。

「痛く感じないよう素早く行います。」

「・・やはり、そなたは優しい子だ。マクシミリアン。ユグレイティの地を頼む。」

「・・・はい。」


 マクシミリアンはその体勢のまま、固まったように動かなかった。

 ただ、荒い息使いだけが、部屋の中に響いている。

 マクシミリアンの顔は私からは見えない。でも目を閉じたオーレリアンの顔に水滴が落ちるのが見えた。

「魔王オーレリアン!覚悟せよ!」

 マクシミリアンの叫びと共に、鈍く大きな重低音が部屋に響いた。


 マクシミリアンはオーレリアンの腹の上に座り込んだ。

 剣から手を離し、腰に下げていた短剣を鞘から抜いて、オーレリアンの胸に切っ先を当てる。

 私は立っていられなくて、床の絨毯の上に膝をついた。

「何をするの。マクシミリアン。」

「何って。食べるのだよ。前に言っただろう。魔力量の多い者を捕食すると糧にできるって。叔父上は病で魔力量も減ってはいたけど、やはり魔王だから、それなりに魔力量は多い。」

 私の問いに応えながらも、彼の手は動きを止めない。

「全部は無理だけど、生命をつかさどる心臓と、魔力を保持している魔臓は食べないとならない。食べるところは見なくてもいい。血は嫌いだろう?」

 今、私の目の高さだと、彼の手元は見えない。


 あまり血を見るのは好きではない。今もオーレリアンの解体現場に立ち会っているのだ。正直気を失ってしまいたい。でも、涙が乾かないうちに、淡々と作業をしているマクシミリアンを見ると、とても心配になる。

 彼は私の方を見て苦笑した。その表情はいつものマクシミリアンだった。

「リシテキア。私の目を見て。」

 彼の赤い瞳を見つめていると、急激に眠気が襲ってくる。

「終わったら起こすから、しばらく寝ていて。」

 今の彼を一人にするのがためらわれる。

 でも彼に施された眠気には勝てなかった。彼の表情のない顔を見ながら、私の意識は途切れた。

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