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天女と魔年 前編 第八話 謁見

 私とマクシミリアンは、隣り合ってソファーに腰を下ろしている。

 私たちの目の前には、一人の男性がやはりソファーに座り、こちらを見つめている。

 マクシミリアンより齢は上のように見えるが、魔人は天仕と同じように寿命は長い。ある程度成長すると、それからは成長に見た目が伴わなくなる。だから、実年齢は正直分からない。だが、その瞳に映る色は理知的で、とても凪いでいた。


 先ほど挨拶は済んでいる。彼はこの館の当主であり、魔王でもあるオーレリアンだ。

 魔王は、魔人の内、より魔力をもち、力の強い者をいう。魔王は複数人いて、一応魔人の住む地を分割して治めている。オーレリアンは、ここユグレイティの地を治めていることになる。そして、オーレリアンは、マクシミリアンの叔父にあたる。


「決心が定まったと聞いたが、誠か?」

「はい。」

 マクシミリアンの言葉を聞いて、オーレリアンは深々と息を吐いた。

「今までのらりくらりとこちらの要望をかわしていたのに、どういう風の吹き回しだ。」

「それは・・。」

 マクシミリアンは、言いにくそうに口ごもったが、私の方に視線をやってから、オーレリアンに告げた。


「私は彼女と添い遂げたいのです。叔父上。そのために彼女を守る力が欲しい。」

 彼が言った言葉に、私は表情を変えないようにして、軽く口を押さえた。心の中で声を上げる。私と一緒にいる時、彼はそんなそぶりは少しも見せていない。

「随分自分本位な理由だな。そのような理由では、ユグレイティの地を任せていいか不安になるが。」

「理由が何であれ、責務は果たします。」

「・・そなたならうまく行ってしまうだろう。私はそう思って、そなたを後継者に押したのだから。」


 感情を出さないように微笑を浮かべて、私は二人のやり取りを聞いているのだが、内心はかなり困惑している。どうも私と結婚するために、彼は魔王の座を継ぐと言っているような気がするのだけれど。


「それで、そなたの病は治ったのか?」

「それは・・彼女が側にいると治まるのです。」

「そういうことか。」

 病?マクシミリアンが体調を崩しているようには見えなかったけど。何か持病でもあるのだろうか?しかも、私と一緒にいるとその病が治まる?ますますわからない。

 困惑している私をよそに、2人の間で会話は進んでいく。


「まぁ、よい。こちらとしては助かった。私はもう長くはなかった。宰相としてアシンメトリコを就ける。実務は既に行っているから、問題はないだろう。他、分からないところは、自室にある書類を見てくれればいい。」

「何か、遺言はございますか?」

「いや、特にない。そなたにはつらい思いをさせたな。マクシミリアン。本当は魔王などなりたくなかっただろうに。」

「叔父上には育ててくださった恩があります。私はそのために生かされた命です。病のため、それもかなわないかと思いましたが、彼女のおかげでお役目を果たせそうです。」


 オーレリアンはマクシミリアンを優しいまなざしで見つめた後、私の方にその視線を向けた。

「リシテキア。マクシミリアンは今まで自分から何かを欲しいと言い出さなかった。独占欲も執着欲もない、私のことを助けてくれる子だった。私は最後に彼が君と添い遂げたいと聞いて安心したよ。彼と共にいてやってほしい。」

「はい。謹んでお請けいたします。」

 遺言、最後、言葉の端々から、この人は近いうちに亡くなると感じて、それ以上の言葉は言えなかった。だが、私の考えは甘かった。その後の彼の行動は、私の考えを上回るものだったのだ。

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