天年と人女 最終話 唯青い
つい先日まで嵐だったが、今は雨もやんでおり、風も穏やかだ。
日差しも出ているが、暑い時期ではないので、外を歩くのにはいい気候だ。
私は浜辺を歩いていた。
家からすぐ近くにあるこの浜辺は、珍しいものが流れ着く。それらは私が作る薬や魔道具の元になることが多い。だから、時間がある時は小まめに来るようにしている。
それに、時間帯によって、海の青さは、彼女の瞳を思い出させる。
青い海を唯々眺めるのも、また一興だった。
私は、軽いあくびをして、目をこする。
このところ、夢の中に彼女が出てきて、一緒に過ごすことが多い。
きっと、私の未練が、夢の中だけでも彼女に会おうと、動いているのだろう。
夢の中の彼女は、より自由奔放で、もちろん病にも侵されていない。その明るさや優しさには癒されるが、なかなか目が覚めなくなることと、夢を見ているせいで眠りが浅いのには困ってしまう。
私は、浜辺の砂の上に、日光を反射するものがあることに気づいた。
近づいて取り上げて見ると、それは指に嵌める装身具だった。装身具は2つあり、片方は赤い宝石が、もう片方は黄褐色の宝石がついていた。
「これは・・魔道具か?」
元々、この装身具は対になっている物であるようだ。
装身具の宝石を通じて、もう片方の装身具の場所が特定できるようになっている。
今は共に同じところにあるので、その機能は役に立ってはいないが。
装身具の大きさも、黄褐色の宝石がついている方が、輪が大きくできているらしい。
それぞれ、別の者が着けていたのかもしれぬ。
他にも別の機能が付けられていそうだ。きっと、それなりの魔力を有する者が作成したのだろう。
私が作成する魔道具にも応用ができそうだ。
私は、赤い宝石のついた装身具の方をしげしげと眺める。
たしか、これと似た物をどこかで見た覚えがあるのだが、誰が身に着けていたのか。
思い返してはみるものの、一部の記憶が断片的になっていて、細かいところの記憶がぼんやりとしている。これも長く生きてきたことへの弊害だろうか?
まぁ、いい。その内ふと思い出すかもしれない。
「これは面白い。また楽しみが増えた。」
私は独り言をつぶやきながら、装身具を腰につけている皮袋にしまった。
海から吹いてきた風が、私の水色の髪を巻き上げる。
私は、いつもの癖で胸元にある宝石を握りしめる。彼女と交わして唯一残った婚姻の証を。




