天女と魔年 最終話 討伐
玉座に座った金色の髪、赤い瞳の男性の前に、金色の髪、金色の瞳の少年が跪いて礼をした。平然とした様子の男性に比べ、少年は緊張からか顔をこわばらせている。顔立ちは似通っており、一目見ただけでも彼らは親子であることが分かる。
「父上、お呼びと伺いましたが。」
「エンダーン。息災なようで何よりだ。」
マクシミリアンはエンダーンに向かって口の端を上げた。
「私はそなたに魔王の座を譲る。」
「!」
エンダーンは顔を上げて、マクシミリアンの赤い瞳を見つめる。
「宰相として引き続きアシンメトリコを就ける。実務は魔王継承後、アシンメトリコから指導を受けろ。」
「承知いたしました。」
エンダーンは目を伏せた。
「また、私が常日頃言っていることを覚えているな?」
「天仕の純血統種らに報復を。」
「既に種は蒔いている。時機が来れば芽を出す。」
「私は、天仕に会ったこともありませんが、問題ありませんでしょうか?」
「大丈夫だ。その時にはわかる。」
マクシミリアンは艶やかに笑う。エンダーンは、その笑顔を見て、わずかに口の端を引きつらせた。
「では、これから移動する。支度をしろ。」
「は?どこに、ですか?」
マクシミリアンの言葉に、エンダーンはその金色の瞳を瞬かせた。
「案内するからついてこい。棋獣で向かうから、そのつもりでいろ。」
マクシミリアンは、エンダーンの様子を見て、楽しそうに笑った。
館から森の中を棋獣で進んでいくと、その先で森が切れ、目の前に海が広がる。
今日はとてもいい天気だった。空も海も青かった。
これから行われることを、忘れさせるような、払拭するような、そんな天気だった。
アシンメトリコが3頭分の棋獣の手綱を持って、棋獣から降りたマクシミリアンとエンダーンに向かって、礼をとる。
マクシミリアンはそれに手を挙げて答えると、エンダーンを海近くまで連れていく。
「父上、ここで一体何を。。」
「何って、討伐するのだ。」
「討伐?」
「そなたが、私を、討伐する。そうでないと、魔王の座を継承できないであろう。」
マクシミリアンは、腰に下げた長剣をエンダーンに手渡した。
「なに、難しいことではない。この剣で私を背中から突いてほしい。そして、私の身体を崖下に落としてくれればいい。」
マクシミリアンの言葉を聞いて、エンダーンは顔を青くする。
「しかし、それでは父上が。まだ、魔王を続けられてもいいのではないですか?」
「だめだ。もう、薬が切れたからな。」
「薬?父上は病気なのですか?」
「今までは薬で押さえていたが、もう限界だ。最後の薬は数日前に口にした。だから、お前に魔王を継承するのだ。」
さぁ、さっさと終わらそう。とマクシミリアンはエンダーンに向けて背中を向ける。
「どこを刺してくれても構わない。これでとどめをさすからな。」
マクシミリアンは、腰の鞘から短剣を抜くと、その先端を自分の首筋に当てる。左手の薬指には黄褐色の宝石がついた装身具があり、同じく小指には赤の宝石がついた装身具があった。共に日光を反射して光っている。
マクシミリアンが身体を動かすたびに、ジャラリと鎖の音がした。海に落ちた後、体が浮かないように、足や腕に鎖を巻き付けているらしい。
「さぁ、やれ。エンダーン。」
マクシミリアンの言葉に、エンダーンは大きく首を横に振る。
「そんなこと、できません。」
エンダーンが紡いだ言葉に、マクシミリアンは振り返って、呆れたように返した。
「難しいことではないだろう。」
「そういう問題ではありません。」
エンダーンは再度大きく首を横に振った。顔色は青を通り越して白くなっている。
「では、身体の前で、両手で剣を持って構えろ。」
マクシミリアンは、エンダーンの両手を取って、剣の柄を握らせた。エンダーンは、自分の手が取られているにもかかわらず、されるがままに、マクシミリアンが行う様子を眺めている。マクシミリアンは、エンダーンが剣を構えたのを確認すると、その切っ先に向かって、自分の身をためらいなく近づけた。
エンダーンの金色の瞳が大きく見開かれた。
「父上!」
「・・ほら、できたではないか。偉いぞ。エンダーン。」
長剣の切っ先は、マクシミリアンの腹の上部から背中までを貫いた。
マクシミリアンの口の端から血が流れているのに、彼は微笑んでいるようにも見える。合わせて、腹の傷からその刃、柄を通り、エンダーンの手に向かって、赤い血が流れる。
マクシミリアンは、エンダーンの身体を力強く押し離した。その反動を利用して、自分の身を崖から躍らせる。その後ためらいなく、自分の首を短剣で突き刺した。
エンダーンは、マクシミリアンに突き飛ばされた反動で、その場に尻餅をつく。手に持っていた長剣は、マクシミリアンの身体に刺さったまま、崖の下に一緒に落ちていった。
エンダーンの耳に、激しい水音が届いた。マクシミリアンが海に落下した音だ。
「父上・・。」
エンダーンは茫然とした様子でぽつりとつぶやいた。
エンダーンの隣に、アシンメトリコが来て跪いて礼を取った。手にはまだ棋獣の手綱を持っていたが、その数は2つに減っていた。
エンダーンは、涙がにじんだ金色の瞳で、アシンメトリコを見つめた。
「エンダーン様。魔王就任、おめでとうございます。」
感情を含まないアシンメトリコの声が響いた。




