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天仕の少女と魔人の少年(天女と魔年)、天仕の少年と人間の少女(天年と人女)の物語  作者: 説那


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天年と人女 後編 第十五話 再発

 ノックの音に応えると、扉を開けて、一人の幼子が部屋に入ってくる。

 足首までありそうな長い水色の髪、深い青い瞳。

 彼女は手にたくさんの青い花を抱えていた。


 寝台に寝ていた私は、その花を見て懐かしくなって微笑む。

「テラスティーネ。綺麗な花ね。」

「そうでしょ?お母様に見ていただきたくて、お願いして摘ませていただいたの。」

 後で、花瓶に飾るわね。と言って、テラスティーネはニッコリと笑った。


「名前は・・たしかフィラネモって言うの。でもあまり花もちはしないのですって。本当は咲いているところを眺めるお花なのですって。お母様はご存知?」

「ええ、昔、貴方のお父様とフィラネモの丘に見に行ったことがあるわ。」

「いいなぁ。私もいつか行ってみたいな。」

「とても綺麗な青い絨毯みたいなの。晴れていると、空も水色で、とても美しいわ。」

 あの人の髪の色のように。そして、貴方の髪の色のように。


 テラスティーネは、私の言葉に目をキラキラさせた。

「お母様も行ければいいのに。お身体はよくならないの?」

「もうお外には出られないかもね。いつか、テラスティーネが見に行ったら、どんな様子だったか聞かせてね。」

「もちろん!」

 私は寝台の横まで来たテラスティーネの頭を優しく撫でる。


 その時、また部屋の扉がノックされた。テラスティーネが私の代わりにノックに応答すると、侍女が入ってきて言った。

「フェリシア様。領主様がいらっしゃいました。」

「わかりました。お通ししてください。」

 テラスティーネは、私の方を振り仰いで言った。


「お母様のお身体に触るといけないから。領主様にご挨拶した後、自室に下がります。」

 テラスティーネは、手に持った青い花を落とさないように抱え、部屋の扉に向かって歩いていき、扉の前で振り向くと、ほころぶように笑った。

 私も同じように笑みを返した。


 それから間もなくして、領主である兄エルキュールが部屋に入ってくる。そして、私が横たわっている寝台の隣に椅子を持ってくると、それに腰を下ろし、私の方を見つめた。

「フェリシア。体調はどうだい?」

「相変わらずです。兄様。」

 私の言葉を聞いて、彼はその顔を曇らせた。

「それは・・やはり、虚弱が再発してしまったのか?」

「はい。せっかく治していただいたのに、私の命はこれまでだったようです。」


 娘のテラスティーネが5歳を迎えたころから、私は体調を崩すことが多くなった。今ではほぼ寝たきりだ。そう遠くない内に、私の命は尽きてしまうだろう。

「せっかく、アルフォンスが命を懸けて守ってくれたのに。」

 エルキュールが私の隣で頭を抱える。私はそんな兄の様子をぼんやりと眺める。

 私たちを助けるために、致命傷を負ったまま賊を追っていき、行方不明になったアルフォンス。既に6年たっていることから、生存は絶望視されていた。実際は死んではいない。それは分かっているが、手紙だけの一方通行のやり取りは、空しかった。いつか家族3人で暮らせるかもしれないという希望も、私がこの状態では叶わないだろう。


 アルフォンスは、出会ったころから、エルキュールの信頼が厚い人だった。アルフォンスはいつもエルキュールが自分のことを買い被っていると苦笑していた。実際、それほど兄の信頼が厚かったから、私は彼とその後関係が続けられたようなものなのだけど。


「兄様。なぜ兄様はそれほどアルフォンスを信頼していたのですか?」

「何を突然。彼は信頼に値する人だったではないか。」

「それは・・わかりますが、何かきっかけでもあったのでは?」

 私の言葉に、彼は過去を思い返すかのように、空中に視線をむける。

「私が彼に初めて出会ったのは、院ではないのだ。」

「そうなのですか?」

「彼はその前に父上に挨拶に来ていたのだ。家族で一緒に。」

 アルフォンスは16歳の時に、ここエステンダッシュ領に移住してきている。その時に、領主であった父に挨拶に来たのだろう。


「・・でも、兄様はリシテキア様のことはご存じなかったですよね?お父様と一緒に挨拶を受けたのではないですか?」

「いや、私はその前に父上に次期領主の自覚がないとかで叱られてね。館の中庭の長椅子に座って、ぼうっとしていた。」

「兄様にもそのようなことがあったのですね。」

 私の指摘に、エルキュールがばつが悪そうに眉をしかめた。

「あの頃は、院の卒業も近くなっていたから、同じようなことで父上に叱られることが多かった。私は結構落ち込んでいたのだ。そうしたら、アルフォンスが中庭に現れた。」


「あら、挨拶は終わったのですか?」

「なんでも、大人の話があるから、しばらく中庭でも散歩してきたらと追い出されたらしい。初対面の挨拶をした後、いろいろ話をしているうちに、私は思わず、次期領主としての自覚が足りないと父に叱られてばかりだと、彼にこぼしてしまったのだ。彼は笑うことなく真剣な表情で私の話を聞いてくれてね。そして、言ったのだ。」


『領主様が貴方を叱るのは、貴方に期待しているからです。何も思っていなければ、きっと放っておかれる。貴方が期待に応えられると思っているから、叱るのです。落ち込むことなどありません。私は貴方が治めるこの領を見てみたいです。』


「私の周りには、私が次期領主だからと、すり寄ってくる者が多かったから、私の話を親身に聞いてくれて、それに対して答えてくれたのは、彼が初めてだったのだ。テオファーヌもいた。だが、彼は悪い者ではないが楽観的だし、私を支えることをまず考える人物だったから、愚痴をこぼせる間柄でもなかったしな。」

「そうだったのですね。だから、兄様は彼に信頼を寄せるようになったのですね。」

「一時期は、そなたから彼を取り上げるような形をとってしまい、すまなかった。」

 彼は私に向かって頭を下げた。きっと、彼が騎士団長の時に、領主の護衛任務を任せたことを言っているのだろう。


「そのことに関しては、もう既に彼と話しましたから、問題ありません。」

「・・もし、彼がこの場にいたら、またそなたを助けてくれただろうか?」

 彼は苦々しい口調で言った。言っても詮無いことだとわかっているのだろう。なぜなら、彼は死んでしまって、ここにはいないからだ。

「そうですね。どうでしょうか?」

 私はそう言ってフフッと笑う。兄にはそう返したものの、彼は自分の命を私に分け与えた天仕なのだ。方法があれば、何かしらの方法で私を助けようとするだろうと思った。


 でも、私はもうそれを望まない。


 私は、寝台横の卓にある書きかけの手紙に、目を落とした。

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