天年と人女 後編 第十四話 初顔合わせ
「こんにちは。フェリシア様。ご無沙汰しております。」
私の目の前で、プラチナブロンドの髪、赤い瞳の幼子が、跪いて、礼を取る。以前会った時より伸びた身長。顔だちもよりしっかりとしてきている。
「カミュスヤーナ。お元気でしたか?」
「はい。なかなかお会いすることができず、申し訳ありません。その・・私がフェリシア様のもとに伺うと、アルフォンス様のことを思い出させてしまうから、控えるようにと父様に言われてしまったもので。。」
彼が申し訳なさそうに告げる。私はそれを聞いて、軽く息を吐く。そのようなこと、カミュスヤーナには何の関係もないのに。
「気にしないでくれてよかったのに。アルフォンスも、貴方と私の命が救えてきっと喜んでいます。」
アルフォンスは、あの日、私とカミュスヤーナを賊から救うために、致命傷を負ったまま賊を追いかけて行って、そのまま行方不明になっている。この説明内容には、虚実が混ざっている。
「カミュスヤーナは、領主様の養子になるのですってね。」
「そうなのです。私の魔力量をかってくださいまして。父様も摂政役ですから、将来は摂政役に就く予定ですが、まだ次期領主のアルスカイン様が2歳ですので、一時的に次期領主に就くかもしれないからと、領主の仕事も学ばなくてはならなくなりそうです。」
カミュスヤーナは私に向かって、はきはきと答えた。
「では、テラスティーネとも、従兄妹になりますね。」
私が膝の上の娘の頭を撫でると、目の前にいるカミュスヤーナの顔が輝いた。
「テラスティーネ。カミュスヤーナ様ですよ。ご挨拶してください。」
膝の上のテラスティーネは、私をその青い瞳で見上げた。私が笑って応えると、彼女はカミュスヤーナを見て、その小さな手を伸ばした。
「カミュス。」
「テラ。」
カミュスヤーナは、視線でテラスティーネに近づいていいか問うてくる。私は彼に向かって頷いた。
カミュスヤーナは、テラスティーネの方に歩み寄ると、その前にかがんで視線を合わせた。
「はじめまして。テラ。」
「カミュス。」
カミュスヤーナが手を差し出すと、テラスティーネは小さな手で彼の手先をつかんだ。そのままブンブンと振って、キャッキャと笑う。
カミュスヤーナの顔が見る見るうちに赤くなった。
「テラスティーネは、カミュスヤーナが好きみたいね。」
「?」
私の言葉にテラスティーネがきょとんとした顔をする。彼女に向かって、す・きと大きく口を動かして何度か言ってみる。
すると、彼女はカミュスヤーナの方に目を向けて、また手を伸ばした。
「好き。」
カミュスヤーナは口を押さえて、その赤い瞳を見開いた。
「テラスティーネと仲良くしてあげてね。カミュスヤーナ。」
私が笑いながら、カミュスヤーナに言うと、彼は赤い顔のまま、なぜかその口を引き結んだ後、私にこう答えた。
「はい。テラの笑顔は私が守ります!」
「・・ありがとう。カミュスヤーナ。」
私は目尻に涙が溢れそうになるのを堪えながら、彼に言った。
「いえ、私は何もできていません。私に力があれば、アルフォンス様がいなくなることもなかったのに。。」
彼は幼いながらに、その場にいて何もできなかった自分の不甲斐なさを感じているらしい。
それを言えば、私も結局は何もできなかった。できれば、あの人を一人にはしたくなかった。これが必要なことだと分かっていても、その手を離したくはなかったのに。
「・・そういえば、カミュスヤーナは、まだマックスと仲良くしているのですか?」
私が彼に向かって問いかけると、彼はテラスティーネに手をもみくちゃにされたまま、私に向かって、顔を向けた。
そう、私は気になっていた。
カミュスヤーナが前に言っていた通り、私たちの子は娘だった。まだ、まったく長くはないが水色の髪、そして青い瞳。テラスティーネと名付けた。愛称はテラだ。
そして、私たちが危険に晒された時、カミュスヤーナがマックスに向かって、助けを求めたのを聞いている。その後、カミュスヤーナの纏う雰囲気が変わった。すぐに眠ってしまって、その後どうなったのかはよくわかっていない。アルフォンスが何とか相手を退けた事しか。
「フェリシア様。」
「何かしら?」
「マックスとは誰のことですか?」
「え?貴方の友達の名でしょう?」
彼は私の言葉に不思議そうにその赤い瞳を瞬かせた。
「私には友達などいませんよ。しいて言えば、本でしょうか?」
そう答える彼はマックスという名に心当たりがないようだ。頭の中にいた架空の存在?それにしては、話していることが随分具体的だったような気がするけど。本に出てきた登場人物を自分の友達のことのように話していた、とか。それにしたって、そのことをきれいさっぱり忘れてしまうことがあるのだろうか?
「でも、今日テラとは友達になれたような気がします。」
「友達どころの話ではなくなりそうだけれど。」
すでにカミュスヤーナの手は、テラスティーネのよだれでべとべとだ。
「テラスティーネ。もう、カミュスヤーナの手を離しなさい。」
「やっ。」
思いのほか強い力で、カミュスヤーナの手をくわえている、テラスティーネの口の端に指を入れて、引き抜いた。
私はカミュスヤーナに手巾を渡して、手を洗ってくるように伝える。
テラスティーネの口元をぬぐっていると、手を洗い終えたカミュスヤーナが戻ってきた。若干頬が赤いように感じる。熱でも出たのだろうか?
「大丈夫?カミュスヤーナ。」
「はい。大丈夫ですよ。フェリシア様。」
彼はそう言って満面の笑みを浮かべた。




