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天仕の少女と魔人の少年(天女と魔年)、天仕の少年と人間の少女(天年と人女)の物語  作者: 説那


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天年と人女 後編 第十二話 改竄(かいざん)

 私と会話をしつつ、カミュスヤーナは、手を動かし、口を動かす。一応、服などを汚さないよう気を使っているらしい。

「美味しいのか?」

 私の言葉にピクリと動きを止めた後、カミュスヤーナは声をあげて笑った。

「そなたが冗談を言えるようになるとは・・あぁ、おかしい。」

 別にそのようなつもりで口にしたわけではなかった。純粋な好奇心だ。もちろん、私は同じことをするつもりは、これっぽっちもない。

 カミュスヤーナは、私の言葉にひとしきり笑った後、ぽつりと感想を口にした。

「思った通り、さほど美味しくはない。」


「魔人にとって、天仕はごちそうなのだろう?」

「私は既に最高の味を知ってしまっているからな。」

 カミュスヤーナは、手を止めて、その赤い瞳を揺らめかせた。

「最高の味?」

「そうだ。唯一無二の。私はあれ以上の甘露はもう味わえない。」

 彼のうっとりとした表情を見ていると、このような状況なのに、唾が湧いてくる。ただ、彼が何を指して『甘露』と称しているのかは、わからない。彼は魔人だから、私とは多分味覚が異なる。たぶん、私には食べられないものだ。となぜか思った。

 それにしても、よく私も姉様も、彼に対して食べられずに済んだものだ。


「アルフォンス。記憶の改ざんをするのか?」

 急に、カミュスヤーナは話題を転換した。私は彼の言葉に、湧いた唾を飲み込んで尋ね返した。

「なぜ、そんなことを申し出る?」

「そなたがそうしてほしいと思っているのが、わかったからな。」

 一度、目の前でやってみせているし。と彼は言葉を続ける。それは、テオファーヌのことを言っているのだろうか?私は首を傾げた。


「今、改ざんできるのは、そなたの妻だけだが。」

「できれば、私という存在自体消してもらいたい。」

「それは無理だな。妻にするくらいだから深い関係にあったのだろう。その存在がなくなると、いろいろなところで齟齬が発生して、すぐ瓦解する。下手すれば、彼女の精神が壊れるのでお勧めしない。」


「では、私が天仕であることを忘れることと、私が何らかの事故で死んだことにするのはどうだ?」

 そうすれば、彼女の元から離れても問題はないだろう?と言葉を続けると、カミュスヤーナは手を止めて、虚空を見つめた後、目を閉じた。

「それは必要か?正しく説明したら黙っていてくれるのではないか?」

「・・・。」


「そなたが今は彼女の元を離れた方がいいのは、私も賛同する。だが、そなたが言うように記憶を改ざんしてしまうと、彼女に二度と会うことができなくなる。死んだはずの者が目の前に現れるわけにはいかないから。私は、彼女に言葉を尽くして説明し、その上で周りには行方不明ぐらいにして、この地を離れることをお勧めする。もしかしたら、ほとぼりが冷めれば、別の地でまた家族一緒に暮らせるかもしれないからだ。」


 余計なお世話かもしれないが。と、彼は言葉を続けた。

 私は彼の言葉を頭の中で咀嚼する。確かに、彼女にまた会える可能性は残しておきたい。それに会えなくとも、手紙などでやり取りを続けていくことが可能になる。少しでも繋がりが持てる可能性は排除してはだめだろう。

 私はこちらを見つめている彼に向かって、頷いた。


 彼は手に持っていたものを口に押し込むと、イレミアスの身体から離れた。

「アルフォンス。奴の所持品を確認してくれないか。私はこの手だから、このままだと、それらも汚してしまう。」

「ああ。」

 カミュスヤーナの言葉を受けて、私はイレミアスのベルトに着けてある袋や懐をまさぐった。いくつかの所持品の中に、書類のようなものが含まれていた。中身に目を通すと、報告書のようだ。


「これは・・私たちを狩った後に、その旨を報告するのに使う書類だな。内容はほぼ書いてあって、署名して送るだけになっている。」

「では、それをアルフォンスは既に死んでいたから、供物として献上することはできない旨書き直せ。もし、そなたの妻や子についてのことが書かれていたら、その部分は削除せよ。その他も辻妻が合うように直しておけば、相手の目をそらすことができるだろう。」

 私は手と口を洗ってくる。と言葉を続けて、カミュスヤーナは部屋を出て行った。


 こちらに都合のいいように、私は報告書の内容を書き換えた。イレミアスの署名を付け加え、封筒に収め、宛名部分に微量の魔力を送り込んだ。宛名部分が光り、封筒が宙に浮く。

 窓を開けると、そこから封筒は外に飛び出していった。

「うまくいったか?」

 顔と手が綺麗になったカミュスヤーナが戻ってくる。

「報告書は内容を改ざんして送った。」

 私の言葉にカミュスヤーナは頷くと、イレミアスの身体に向けて、青い炎を放った。

 イレミアスの身体が跡形もなく焼き尽くされていく。


「これでひと段落着いたか。では、私は身体をカミュスヤーナに返す。しばらく、起きないと思うから、よろしく頼む。」

「マクシミリアン。」

「なんだ?」

「礼を言う。私たちの命を救ってくれて。ありがとう。」


「カミュスヤーナの頼みだからな。それに・・リシテキアも同じことをするだろう。だが・・今後、これほど加勢はできなくなるだろう。カミュスヤーナが成長すればするほど、身体を借りられることには違和感が伴うし、私も・・正直いつまで生きられるか分からない。」

「・・なぜ?薬代わりに姉様がいるのではなかったのか?」

 私の問いかけに、彼は珍しくハッとしたように口を押さえた。


「おかしいな。このように口を滑らすとは。」

 彼は、自嘲したような笑みを浮かべた後、私の問いかけには答えず、その目を閉じた。

 身体がぐらりと傾いだ。

 私はその身体を慌てて受け止め、そのまま強く抱きしめた。

「本当にありがとう・・。」

 私はぽつりとつぶやいた。

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