天年と人女 後編 第十一話 相談
フェリシアを別の部屋にある寝台に寝かせ、自分は家にあった回復薬を煽った。
魔力は回復できないので、羽は出たままだ。
立って、壁にもたれかかっていたカミュスヤーナに、刃物を渡す。
「では、今後そなたはどうしたい?」
カミュスヤーナは、私に問いかけつつ、イレミアスの腹の上にまた乗ると、その胸に渡した刃物を突き立てた。
「待て、そなたは何をするつもりだ。」
カミュスヤーナは、隣の床に座り込んだ私をキョトンとして見つめた。
「何って、心臓と魔臓を取り出して食べるけど。」
そういえば、リシテキアにも同じことを聞かれたな。とカミュスヤーナは懐かしそうに言って、笑う。幼子である身なりと、言動が全く合っていない。
「食べるって、カミュスヤーナの身体でそれを行うのか?」
「カミュスヤーナも半分は魔人なのだから。天仕を食べないのはもったいないだろう。そなたは知らないのか?魔力量の多い者を捕食することは糧になる。」
私の問いに応えながら、手は動きを止めず、イレミアスの胸を刃物で切り開いていく。
天仕は、魔人にとっては捕食対象であることは知っている。
だから、天仕は魔人の住む地には近づかない。
彼が行っていることは、魔人としての行動だから、それを咎めるつもりもない。
私たちに肉を食べるなと言っているようなものなのだから。
それに私は、その彼に命を救われているのだから。
医学を学んでおり、騎士団長として務めていることからも、血が流れる状況には耐性があるが、幼子が死体の上に乗って、その内臓を取り出して食べようとしている状況は、普通の人であれば、見るに堪えない映像だろう。
「まぁ、こちらは食べながらだが、話は進めよう。今後はどうしたいのだ?」
「・・どちらにしても、私は今後も命を狙われそうだ。」
私は簡単に、他種族の血が混じっている天仕は、王への供物にされることを話した。
カミュスヤーナは、私の説明を聞いて、少し考え込むように目を閉じたが、その後、目を開いてぽつりとつぶやいた。
「・・血統など大した力もないのに愚かな。」
「イレミアスは死んだが、他の者がまた来ないとも限らない。私はこの地を離れようと思う。姉様はこちらには戻ってこないのだろう?両親はいないし、私が死んだことにすれば、フェリシアにも危険は及ばないだろう。」
「・・確かにリシテキアはそちらには戻らない。リシテキアはこちらで守るから問題はない。天仕が捕食者である魔人の住む地にはまず来ないだろう。・・女は孕んでいたようだが、そなたの子ではないのか?」
カミュスヤーナは、手元にある臓器のかけらを口に入れた。口元と手が、血でどろどろになっていた。
「女、ではない。彼女は私の妻のフェリシアだ。」
「そうか、そなたも結婚したのか。で、そなたの子は問題ないのか?」
「私がフェリシアと婚姻したことも、そして彼女のお腹の中に私の子がいることも、ここに来たイレミアスしか知らないだろう。そして、そのイレミアスは死んだ。だから、私さえ彼女の近くにいなければ、問題はないはずだ。」
カミュスヤーナは、私の言葉を吟味するように、斜め上に視線を向けた。
「まぁ、問題ないであろう。いざとなれば、カミュスヤーナも力になれるはずだ。」
「カミュスヤーナが?」
「私たちの息子だ。力がないわけがないであろう。」
それにそなたの子のことも慕っているようだしな。と彼は言葉を続けた。
「私の子?それは、フェリシアが身ごもっている子のことか?」
「そうだが。それ以外にいるのか?」
彼は首を傾げた。
「いや、いないが。なぜ、カミュスヤーナが、私の子のことを慕うのだ?まだ、産まれてもいないのに。」
「カミュスヤーナは、その子が何者か、知っているようだった。将来は結婚するとも言っていた。」
「は?」
いやいや、意味が分からない。なぜ、カミュスヤーナが、産まれていない私の子のことを知っているのか、しかも結婚するということは、娘が産まれてくるということを意味する。
「なぜ知っているのかは、私にもよく分からないのだ。説明はしてくれたのだが、理解ができなかった。」
「そなた、そんなに頻繁にカミュスヤーナとやり取りをしていたのか?」
「夢を通じてな。血の繋がりがあるせいか、やり取りは簡単にできた。」
「それでそなたのことをマックスと呼んでいたのか。」
さすがに本名を名乗るわけにもいかぬのでな。と彼は言葉をつづけて、笑った。




