天年と人女 後編 第十話 加勢
「まったく、しぶとい!だが、いつまでも、そうやってはいられんぞ!」
イレミアスが結界に対し、何度も剣を打ち込んでくる。
その時、今まで眠ったままだったカミュスヤーナが、フェリシアの膝の上で身じろぎした。
「フェリシア様・・アルフォンス様?」
上半身を起こすと、頭の上の私とフェリシアをその赤い瞳で見つめる。
「カミュスヤーナ。危ないから伏せていて。」
フェリシアがカミュスヤーナに向かって囁く。
カミュスヤーナは、頭の上で結界に対し、剣が何度も振り下ろされるのを見てとり、顔を青くさせた。そして、私の方を見て言った。
「アルフォンス様。このままだと死んじゃう?」
「そんなことは私がさせない。たとえ、私が犠牲になっても、君とフェリシアは私が守る。」
私の言葉に、カミュスヤーナは大きく顔を歪めた。その赤い瞳に涙を滲ませる。彼は空中をきっと睨みつけると、同じ方角に声を張り上げた。
「アルフォンス様が死ぬなんて嫌だ。どうか助けて!マックス!」
カミュスヤーナは助けを求めて叫んだ後、目をぎゅっと瞑った。
そして、目を開くと、口の端を上げて、私を見た。
「もっと早く助けを求めればいいものを。」
「カミュスヤーナ・・?」
纏う雰囲気が変わった彼を見て、私もフェリシアも目を瞬かせた。
カミュスヤーナは、まずフェリシアの瞳をじっと見つめた。フェリシアはしばらくすると、ふっと意識を失って、私の方に倒れこんでくる。
「フェリシア!」
「眠らせただけだから、心配ない。」
カミュスヤーナは、私に応えながら、自分の手首を縛っている縄を、炎を出して燃やし尽くした。
「まったく、彼女といい、そなたといい、なぜ命を狙われているのか。」
カミュスヤーナは、やれやれといった様子で、頭を振った。自分の手首を動かし、問題ないか確認している。その様子は、命がかかっている今の状態に、そぐわずのんびりとしていた。
気づくと、背中の後ろで剣が結界に当たる音がしなくなっていた。
後ろを振り返ると、イレミアスが呆然としたように、こちらを見つめている。
「そなた・・一体何をした?」
彼の眼は私ではなく、カミュスヤーナに向いていた。
「抵抗。」
カミュスヤーナは自由になった手首を、プラプラと動かして、大きく息を吐いた。
「アルフォンス。この者は殺してしまっていいか?」
「はっ、殺すだと?できるものなら、してみろ。小童が。」
カミュスヤーナの言葉を聞いて、イレミアスが口を挟む。
カミュスヤーナは、弾けるようにその場から飛び上がり、イレミアスが持っていた剣を奪った。空中で剣を刃が下に向くように持ち替えると、そのままイレミアスに飛びかかる。
剣の刃がイレミアスの首の中央に深々と刺さった。ダンという鈍い音と共に、イレミアスの身体は木の床に縫いとめられる。
あまりに一瞬の出来事で、何が起こったのかよく分からなかった。
カミュスヤーナは剣から手を放し、イレミアスの腹の上に乗った。
「口ほどにもない奴だ。アルフォンス。結界を解いていいぞ。」
カミュスヤーナの言葉に、私は慌てて結界を解いた。
腕の中で眠ったままのフェリシアの身体を、自分の膝に下ろした。
「イレミアスは死んだのか?」
「正確にはまだ死んでいない。でも、首と身体が繋がっていないから、間もなく死ぬだろう。」
「・・そなたは、何者だ?マクシミリアンか?」
私の問いかけに、カミュスヤーナは面白そうに眉を上げた。
「記憶が戻ったのか?」
「記憶?いや、元々カミュスヤーナが、テオファーヌの子であるということに違和感があったのだ。カミュスヤーナはテオファーヌの色を受け継いでなかったし、顔立ちも似ていなかったから。どちらかといえば、そなたと姉との子であると考えると辻褄が合う。」
「なるほど。」
「先ほど、カミュスヤーナは『マックス』に助けを求めたであろう。マックスはマクシミリアンの愛称だ。」
「そう、私にはそなたらを助ける力があった。カミュスヤーナはそれが分かっていて、私に助けを求めた。だから、私がカミュスヤーナの身体を借りたのだ。一時的に。」
カミュスヤーナは、イレミアスの身体から降りると、私に向かって問いかけてきた。
「この後どうするかを話し合おう。眠っている女はしばらく起きないから、寝台などに寝かせておいた方がいい。ちなみに・・。」
カミュスヤーナは、イレミアスを指差した。
「この者は天仕か?」
「そうだが。」
イレミアスは羽を収めてしまっているので、一見天仕かどうか判断がつかなかったのだろう。私は彼の問いかけに首肯した。
「じゃあ、何か刃物を貸してくれないか?後で処理したい。」
「・・長い間、その身体を借りていて大丈夫なのか?」
中身は魔王マクシミリアンであるとはいえ、その身体はまだ5歳児のカミュスヤーナだ。何かしら負担があるだろうと思われた。
「カミュスヤーナの魂は眠っているし、元々私の子だから、それほど抵抗はない。多分影響も少ないだろう。」
「なら・・いいが。」
私は、彼を見て大きく息を吐いた。




