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天女と魔年 前編 第七話 装い

 クラーラに湯あみと着替えを手伝ってもらった。

 服はどこから調達してきたのか、深紅のワンピースだった。

 袖や裾、襟にはフリルがついていて、身体に沿ったラインなのが恥ずかしい。

 肩下まである髪も、後ろで編みこまれてまとめられている。

 なぜか軽く化粧までされて、耳飾りなどの装飾品までつけられている。

「ヴェルナーには連絡をいたしましたので、間もなく迎えがくると思います。」

 クラーラが告げるのを聞きながら、果実水をもらって口づける。


 先ほどまで着ていた服は、背中に大きく切れ込みが入っていたので、クラーラにはわからないよう、更にいくつか切れ込みを入れておいた。天仕だと何かの折に判明してしまうのは困る。

 この後処分すると言われたので、そのままゴミ箱の中に入れておいた。

 私が持って出たのは首にかけられた守護石だけ。

 守護石は天仕が産まれた時に父母からもらうお守りのようなものだ。

 マクシミリアンにも、吸血される時に身につけていることに気づかれたため、守護石について伝えている。これは常に身につけていることを許された。今もワンピースの下に身につけている。


 そもそも私はなぜここに連れてこられたのだろうか?

 マクシミリアンが事前に全く説明をしてくれないので、従うしかないのだが、魔人の中にいると、いつ襲われるかとひやひやしてしまう。2人でいた時もお互いの話はあまりしていない。考えてみると、私はマクシミリアンのことを何も知らない。彼についてきたのは迂闊だったのだろうか。でも、他に私には頼れる人がいない。


 考えに耽っていると、扉がノックされた。

 クラーラが扉の方へ歩み寄り、扉を開ける。

「準備はできていますか?クラーラ。」

 扉の向こうにいたのは、先ほどマクシミリアンと一緒に消えた、確かヴェルナーという魔人だ。クラーラと共に私の方に視線を向けて軽く頷いた。

「マクシミリアン様がお待ちです。リキテシア様。」

 ヴェルナーに呼ばれて、私は席を立つ。正直様づけで呼ばれるのは慣れないのだが、この館の客人と考えると仕方ないのだろう。

 私は何か言う代わりに微笑を浮かべた。正直どのような言葉遣いが適切なのかもよくわからない。


 ヴェルナーの後をついて、広間の横の通路を抜け、突き当りを右に曲がる。通路の左側が一部広くとられていて、数客の椅子や小さな円卓が置かれていた。来訪者や謁見者が一時的に待たされるために設けられた空間なのだろう。大きな窓があり、夕暮がかった赤い空が広がっている。窓の前にマクシミリアンが立っていた。


 マクシミリアンは黒の上下服を着ていた。上着の着丈は長めで、上下ともに厚手の光沢のある生地で作成され、袖や裾、襟には赤と金の糸で細かい刺繍が入っていた。彼の髪と瞳の色が使われているから、彼の正装なのかもしれない。部屋の中なのに、腰には短剣となぜか斧のような大きな刃のついた剣を下げている。前髪は後ろに撫でつけるように調えられており、今までの彼とは全く違う雰囲気にかなり戸惑う。


 彼は私の姿を見ると、赤い瞳を瞬かせた。

「これは、見違えたな。・・とても美しい。」

 彼の言葉を聞いて、私の顔に熱が集まるのを感じる。言葉には私をからかっているようなふしが含まれていなかった。本気でそう思って言っているようだ。


 彼は私の方に左手を差し出した。

「後で説明はするから、そなたは私のすることを見ていてくれればいい。叔父上に会うが、口裏は適当に合わせてくれ。」

 彼は右手で私の右手をとると、自分の左手の上に掌を重ね合わせるように載せる。

「では、行くぞ。リシテキア。」

「は、はい。」

 私は隣に立つマクシミリアンの瞳を見つめながら、軽く口を引き結んだ。

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