天年と人女 後編 第九話 白い翼
「そこの子どもはそなたの血を引いているから殺すし、よく見るとその女は今孕んでいるから、やはり殺さないとな。」
「この子は私の子ではない。」
「・・確かに色は受け継いでいないが、そなたの面影はあるではないか。いや、どちらかというとリシテキアかな。髪色も一緒だしな。」
彼の言葉に私は口を噤む。私が薄々思っていたことを指摘され、次の言葉が告げられなかった。
カミュスヤーナには、姉のリシテキアの面影がある。
父親のテオファーヌとは似ておらず、色も全く受け継いでいない。
髪色はリシテキアと同じプラチナブロンド、瞳の色は赤、リシテキアが追っていった魔王マクシミリアンと同じ色だ。
以前、境界転移陣の宿直所に、テオファーヌがカミュスヤーナを連れてきた話を、フェリシアにしたことがある。
その時にフェリシアに指摘されたことが蘇る。
『テオファーヌ様のお子様は、奥様と共に亡くなったのではなかったですか?』
私は以前そのように聞いていたと思ったのですが、聞き間違いかしら?と彼女は不思議そうに言葉を続けたのだった。
その時は、聞き間違いだろうと返したが、私の心の中にはずっと違和感があった。
私は金色の髪、赤い瞳の彼を、いつしか見たような気がしていた。初めて会った時より、より成長した彼の姿を。そして、彼の腕の中で眠っていた姉リシテキアの姿を。
「リシテキアのことをそなたから聞くのはあきらめよう。」
イレミアスは、そう言って、フェリシアの方を見ながら、剣を振り上げた。
私は動きが鈍くなった身体を動かして、フェリシアの身体を抱きしめる。
背後でキンと硬質な音が鳴った。
「ちっ、結界か。」
「アルフォンス。これは?」
フェリシアが私の耳元で囁いた。
急遽結界を張ったので、魔力を大幅に消耗した。そのため、身体の中に羽を収めておくことができなくなった。
私とフェリシアを包むように、周りには白い翼が広げられていた。
「そなた、やはり妻に天仕であることを伝えていなかったのだな。」
イレミアスが嘲笑うように言って、結界に向かって剣を何度も振り下ろした。
「フェリシア。すまない。私は今まで君を欺いていた。」
あまり大きな声が出せない。全身がきしむように痛かった。残る魔力で結界を張りながら、抱き合った体勢で、私はフェリシアに囁いた。
「私は天仕だ。君の短命、虚弱は、私の命を分け与えて治した。」
彼女は震える声で、私に問いかけた。
「アルフォンス。なぜそこまでして私を助けたの?」
「・・君の笑顔が好きだから。」
「え?」
「君を守りたいと思った。自分の手で。そして、その隣にありたかった。永遠に。」
彼女の青い瞳が大きく見開かれた。
背中で結界が剣を弾き飛ばす音が鳴る。いつまで、結界がもつか分からない。
結界が破られたら、私たちは死ぬ。




