天年と人女 後編 第八話 血統
私はイレミアスに担ぎ上げられたまま、婚姻前に住んでいた家に運ばれた。家に入る前に、イレミアスは背中に生えていた羽を身体の中に収めた。家の中は狭いから、羽を出したままの移動は困難だからだろう。
家には両親がいるはずなのに、人の気配がまるでなかった。
「イレミアス。私の父母はどうした?」
私の身体を寝台に転がすと、彼は楽しそうに笑って私の言葉に応えた。
「狩って、王に献上したが?」
「!」
「そなた、知らないのか?はぐれは定期的に狩られて、王に供物として献上されている。」
彼が言っている『はぐれ』は、他種族の血が流れている天仕のことだ。天仕という種族は血統を重んじる。他種族の血が流れている純血統種でない天仕『はぐれ』は、天仕の住む地では虐げられる対象となっていた。でも、定期的に狩られ、王に供物として献上されているというのは初耳だった。
「そなたたち一家が行方をくらませてから、大分方々を探し回ってしまった。特にそなたの父は天仕としては異色だったからな。人間と偽って生きているとは。さすが、はぐれだな。」
イレミアスは寝台に転がっている私の身体の上に乗ると、首を片手でつかみ、じわじわと力を込めた。
「人間など、下等な生物と一緒に生活し、あまつや、まぐわって種を残すなど。なんと、汚らわしいことか。」
「・・黙れ。」
そなたら純血統種より、よほど人間の方が優しく情もある。血統に捕らわれるそなたらよりよほど高等だ。その通り告げたら、彼が激昂するのが分かっていたから、私は頭の中で、彼の言葉に反論を返す。
「そなたに聞きたいのは、リシテキアのことだ。奴はどこにいる?」
「・・・知らぬ。」
「私から、彼奴を襲撃した内容を聞き出していったではないか?おっと、私の弱点ならもう屠ったので、これ以上何もできないぞ。」
イレミアスがさらっと告げた内容に、私は絶句した。
彼の弱点は・・彼の兄の妻と通じていたことだった。自分の愛する人を、兄を殺したというのか?
「なんだ。その信じられないといった顔は?はぐれを狩るという職業柄、弱点はいらない。弱点は全て消してやった。もう、私は何物にも左右されないのだ。大切な者があるそなたより私は強い。」
彼は首にかけた手にさらに力を込めた。
「ぐぐっ・・。」
「そなたたち一家が行方をくらます前に、奴の姿は確認している。クレーメンスも奴を追っていたが、4年ほど前に連絡が途絶えたっきりだ。奴は今どこにいるのだ。」
「数年前に・・このエステンダッシュ領を出て行って、それからはここに戻ってきていない。どこに行ったかは知らない・・。」
彼が鋭い目つきで私を見つめてきた。私が嘘を言っているかを図っているのだろう。どこに行ったかは知っているが、言うつもりはなかった。
「くそっ。」
イレミアスが私の喉から手を離した。私は大きく咳をする。
イレミアスは、私の腕をつかんで、寝台の、そして部屋の外に、身体を引きずった。
肩から背中にかけての傷が、動くたびにじくじくと痛む。
彼は別の部屋の扉を開けて、その床に私の身体を突き飛ばした。
「ううっ。」
「アルフォンス!」
声のしたほうに顔を向けると、そこには後ろ手に手首を縛られたフェリシアが座り込んでいた。その膝上では、カミュスヤーナがやはり後ろ手に手を縛られた状態で、上半身を伏せている。カミュスヤーナは、まだ眠っているようだった。
「フェリシア・・。」
「アルフォンス!あぁ、なんてひどい・・。」
イレミアスは、部屋に入ってくると、腰に差さっていた剣を抜いて、私たちに突き付けた。
「静かにしろ。」
彼はその剣の切っ先をフォリシアの方に向けた。
「アルフォンス。そなたの大切な者たちを殺されたくなかったら、リシテキアの居場所を吐くのだ。」
「・・そなたは、私が言っても言わなくても、私たち全員殺すつもりだろう?」
私の言葉に、イレミアスは面白がるように眉を上げ、フェリシアは顔を青ざめさせた。




