天年と人女 後編 第七話 脅威
門の近くで警戒していた私の横に、騎士が立って敬礼した。
「アルフォンス様。交代の時間です。」
「ああ、ご苦労。」
遠くの空が白く明るくなっている。夜明けが近いのだろう。
仮眠をとるために詰所に足を向ける。仮眠をとった後は、訓練がある。それから事務仕事を行い、今日の夜は館に帰れるだろう。
きっと、フェリシアが笑顔で迎えてくれるに違いない。
彼女のことを思うと、自然と口の端が緩む。
今、彼女の腹の中には、私と彼女の子どもがいる。婚姻してから大分時が過ぎており、このまま子はできないかと思っていた。治したとはいえ、元々虚弱の彼女が、出産に耐えられるか不安にも思っていた。そこは、彼女に押し切られたが。
本当は毎日でも側についていたいが、仕事柄そうもいかない。だから、家にいる時間はできるだけ彼女の様子に気を払っている。
そろそろ詰所に着くかと思う頃、突然肩から背中にかけて熱くなった。
足から力が抜けて、その場に膝をつきそうになる。
一体何があった?
後ろを振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
男は身体の前に剣を構えていた。それを私の背後から振ったらしい。
顔は視認できなかったが、男の背後に広がっているものが、何かは分かった。
「何者だ!」
私は後ろに向かって体勢を立て直し、腰に下げられた剣を抜く。
私の言葉に相手は笑ったようだった。
剣を私に向かって振り下ろしてきた。それを自分の剣で受ける。鈍い音と共に、風圧と刃の重さが自分にかかる。
「そなたが天仕だと、ばらされたくなければ、私と共に来い。」
男は、私と剣を交えながら、そう言った。
最初の一撃が効いていて、身体がふらつきそうになるのを必死で抑えた。
相手の顔が見えない。
まだ夜が明けようという時間だ。周りには人影はなく、詰所からも死角になっていて、こちらは見えないだろう。つまり、助けも望めないということだ。
「こう言った方が効果的か。そなたの妻と子を害されたくなければ、私と共に来い。」
「貴様、フェリシアに何を。」
「まだ、何もしていない。そなた次第だ。」
男は、剣戟の合間を縫って、私の腹にこぶしを見舞った。
「ぐっ・・。」
視界が白くなる。
「簡易鎧では、腹は無防備だな。」
身体を折って力が抜けた私の手元から、男は剣を振り払った。剣が手元から外れて、地の上を滑る。
男は、自分の剣を鞘に収めると、俯いた私の髪を引いて、目を合わせてきた。
「・・イレミアス。」
「やっとわかったか。はぐれ。」
イレミアスは口の端を上げた。黒い髪に金色の瞳。そして、背中には白い羽が広がっている。
「手間をかけさせて。やっと見つけたぞ。この場で殺ってもいいのだが、そなたには聞きたいことがある。」
髪にかけていた手を乱暴に振り払うと、彼は私の身体を肩に担ぎあげた。
彼の背後で翼が翻った。




