天年と人女 後編 第五話 多幸感
今日は珍しく一日の休みが取れた。
テオファーヌも、この日はカミュスヤーナの面倒は見ると言って、こちらに預けてくることはなかった。カミュスヤーナは手のかからない大人しい子だが、さすがに私もフェリシアと2人の時間が欲しかったから、テオファーヌの申し出はありがたかった。
せっかくフェリシアと心を通わせ、婚姻し一緒に住むようになったのに、私は彼女と過ごす時間をあまり持てなくなっていた。
騎士団長の命を拝してから、通常任務以外に、領主が他の領地に向かう際の護衛任務や、他の騎士たちの勤務形態の把握、調整などの事務作業などが加わった。たまにある不寝番以外にも、仕事をこなすために領主の館や詰所に行くことが多くなり、家でゆっくり過ごすことができなくなった。
フェリシアは、いつも私を心配そうに、不安そうに見つめてはいるものの、ちゃんと私を送り出してくれ、私を笑顔で迎え入れてくれる。
多分婚約時期の治療を行っていた時の方が、定期的に会え、治療と理由を付けて一緒に寝ていたのだから、まだ長い時間彼女と過ごせていたほうだったのかもしれない。
こんな状況だから、婚姻して1年以上たつのに、私たちの間に子はできていなかった。彼女が虚弱体質だったということもあり、性の営みは抑制するつもりだったのだが、そんなことを考える必要もないくらい、私たちは抱き合える回数が持てずにいた。
フェリシアがフィラネモの丘に行きたいと言ったので、2人で行ってその美しい青い絨毯を堪能した。そういえば以前見に来たのは、まだ治療が始まる前だったと思うと、本当に私は彼女のために時間が使えていないことが分かって、愕然とする。
「フェリシア。」
私が呼びかけると、彼女は私を見上げて、軽く首を傾げた。
「どうしました?アルフォンス。」
「・・いや、以前見に来たのはまだ治療前の時だったと思って。すまない。君に寂しい思いをさせて。」
私が言うと、彼女はその青い瞳を瞬かせて、ふにゃりと顔を緩めた。
「先に言われてしまいましたね。」
彼女は私に腕を広げるように言った。私が腕を広げると、彼女は胸の中に飛び込んできて、腰に腕を回して抱き着いてきた。私も彼女の背中に腕を回す。
「寂しいです。アルフォンス。」
「本当にすまない。」
私は彼女を抱く腕に力を籠める。私は彼女を辛い目に合わせないようにすると誓ったのに。
「お仕事が忙しいことは分かっています。でも、アルフォンスの体調も心配です。もう少し、貴方の負担が減る方法を模索してほしいです。」
彼女の背中を撫でながら、私は空中を見つめて考える。私はあまり人との交流が得意ではない。人に任せればいいところを、自分で行っている部分はあるのかもしれない。
「副団長職を作ってみてはいかがですか?」
彼女が胸の中で呟いた言葉を、頭の中で咀嚼する。
「そして、分けられる事務作業などを分担するのです。できれば、通常任務から外してもらえると更にいいですね。」
「他の者の仕事をさらに増やせと?」
「その分、騎士を増やせばいいのでは?今の状態は、騎士団長であるアルフォンスに仕事が集中してしまっている状態です。であれば、その内、他の騎士に任せられる仕事を分担して任せるのです。」
彼女が人差し指を立ててみせた。
「領主の警護騎士という役職を作って、領主の護衛は全てお任せするという方法もございますね。ただ、兄様のアルフォンスへの信頼は絶大なので、渋られそうですけど。」
「・・エルキュールやテオファーヌに相談してみる。」
そうしてくださいませ。と彼女が微笑んだ。
「アルフォンスは騎士団長ではありますが、私の夫でもあるのですから。もっと、私と一緒にいてくださいませ。」
「・・善処する。」
彼女の畳みかけるようなやり取りは、以前にここに来た時のやり取りを思い起こさせる。
あの時は、確か私が彼女の治療をして本当にいいかと問いただされたのだった。
で、彼女から思いを告白され、私は曖昧な告白で返したのだ。
彼女はあの頃から変わっていないが、私の思いは大分様変わりした。今は、彼女が腕の中にいる状況がとてつもなく幸せなことだと思えるから。
「アルフォンス。」
彼女が私を青い瞳で見つめる。私は彼女の頬に手を当てる。彼女がその目を伏せるのに合わせて、私は自分の顔を近づける。
治療も含めたら、私はもう数えきれないほどに彼女に口づけてきた。今はあふれる多幸感に溺れてしまいそうだ。
そんなことを考えながら、私も彼女のように目を伏せた。




