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天仕の少女と魔人の少年(天女と魔年)、天仕の少年と人間の少女(天年と人女)の物語  作者: 説那


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天女と魔年 後編 第二十二話 同化

「マクシミリアン様。」

 宰相アシンメトリコの呼び掛けに、私は軽く頷いた。

「エンダーンは先ほど眠らせた。しばらく起きることはないであろう。」

「侍女が大変困っておりましたので、助かりました。」

 アシンメトリコは私を見て、何かを言いたげに口を開いたが、何も言葉にならないのか、また口を閉ざした。私は、彼が聞きたいであろうことを、先回って言ってやった。


「リシテキアについては、明日の朝までには終わらせるから、こちらが呼ぶまでは寝室には来ぬように。そして、すまないが、私はそう長い間魔王を務めることが叶わなくなった。エンダーンが・・程よき年齢になったら、魔王の座を引き継ぐ。」

「・・・大変残念です。」


「私がリシテキアとちゃんと話をしなかったのがいけなかったのだ。話をしていれば、彼女が人間の住む地に向かうこともなかった。全て私が悪い。」

「リシテキア様とはお話になれたのですか?」

「・・話すことはできた。全ては遅かったが。・・リシテキアとカミュスヤーナのことは、先ほど話した通りに周知しろ。」

「カミュスヤーナ様を人間の住む地に逃がしたことで、その咎のためリシテキア様を処刑した。本当にそれでいいのですか?」

 マクシミリアン様が実際に手を下したわけではないのに。とアシンメトリコは言葉を続ける。

「事実を伝える必要はない。」


 リシテキアが、双子が魔人にとって忌み子であることを悲観し、カミュスヤーナを人間の住む地に逃がそうとした。その際に魔獣の襲撃を受け亡くなった。カミュスヤーナは、彼女の願い通り、通りがかった人間に預けた。リシテキアの遺体は持ち帰ってきて、寝室にある。彼女は私の病の薬になる存在だから、私の方で継続的に摂取できるよう処理する。だが、どう考えてもいつかは薬が尽きる。その前に、エンダーンに魔王を継承する。

 アシンメトリコには、そのように話している。


 正しい事実を述べるには、彼女が天仕であったことから話さなくてはならない。それよりは、魔王としての体面を優先した方がいい。彼女を死なせてしまったのは私であり、彼女が死んでしまったことは事実だ。


 私は身を翻して寝室の方に向かう。腰につけた長剣と短剣が、耳障りな音をたてた。


 寝台に横たわった彼女の肌はとても白く、触れても冷たく、でも今にも目を開いて、起き上がってきそうだった。

 服を着替えさせ、身体や顔も拭いてやりたかった。だが、彼女の背中に羽が生えた状態では、どの魔人にも彼女を見せられない。

 私は、彼女の頬に舌を当てて、目尻に向かって舐めた。ほんのり甘さは感じられるような気がするが、気のせいかもしれない。


 彼女の胸に耳を当ててみる。もちろん、鼓動は聞こえない。

 そう、彼女の魂はもうここにはない。

 彼女を追いかけたいが、私は彼女にエンダーンを託された。すぐに命を絶つわけにもいかない。カミュスヤーナのことはあまり心配していない。近くにアルフォンスがいる。例え記憶がなくとも、彼ならばうまくやってくれるだろう。それに、夢の中で魂を繋げて様子を伺うことはできなくもない。彼は私の息子だ。方法は如何様にもある。


 私は彼女が左の薬指に嵌めていた装身具を抜きとった。装身具についた赤い宝石が鈍くきらめいた。

 これを渡した時の、嬉しそうな彼女の笑顔が脳裏にちらついた。もう、その笑顔を見ることも二度とない。

 私はなぜ間違えてしまったのか。今でも、大きく叫びだしたい。彼女は幸せだったと言って、笑ってくれたが、私は自分で自分を許すことができない。

 私はその装身具を自分の左の小指に嵌めた。


「リシテキア。私は君を失う元になった全ての天仕の純血統種に報復する。私ができなくとも、私はエンダーンとカミュスヤーナに、この思いを託すつもりだ。」

 彼女が応えることはないことが分かっていながら、私は彼女に向かって誓う。

 少なくとも、カミュスヤーナはまだ赤子でありながら、術を発動させている。私と彼女の子どもたちなら、その力がある。

 もし、彼女が実際に聞いていたら、止められたかもしれないが、私はそうでもしないと、彼女に報いることができないと思った。


「君は私が叔父上を捕食した時のことを覚えているか。私はその時、人を捕食するなど、そうあるはずがないと思っていた。だが、私は死ぬまでは君と一緒にいたい。」

 私は彼女のいない世界で生きていたくはない。本当は。でも、彼女が私の身体の中にいると思えば、まだ生きていられるかもしれない。

「私が食べてもいいのだろう?リシテキア。」

 もう何度も味見はした。その甘美な味は十分わかっている。

 彼女は私の血となり、肉となり、薬となる。そして、私が命を絶つまではずっと一緒にいられるだろう。

 私は自分の腰に差した剣に手を伸ばした。

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