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天女と魔年 前編 第六話 訪問

 しばらく歩いた先にいたのは、とても大きな狼だった。

 狼には手綱と鞍がついている。どうやら人が乗るものであるらしい。

 彼は私を横抱きにすると、伏せた狼の上に軽々と乗った。

 彼は鞍に座り、私はその手前に下ろされる。そして、手綱をとると、私の腰を左腕で引き寄せ自分の方に固定した。

「速いぞ。舌を噛むからしゃべるなよ。」

 言い終わらないうちに、彼は狼の腹を軽く足で叩いた。狼は身体を起こすと、素早く走り出す。


 多分、この狼は棋獣なのだろう。

 天仕は自分で飛べるから、棋獣はあまり使わないが、人間や魔人は長距離の移動や空を飛ぶのに棋獣を使うと聞いている。棋獣は人を乗せるのに慣らされた大型の魔獣だ。

 彼は私をどこに連れて行くつもりなのだろうか?

 この状態だと何も聞くことができないけど。


 棋獣の背に揺られて、背中に当たる彼のぬくもりを感じているうちに眠くなったらしい。

「起きろ。着いたぞ。」

 背中側から肩を揺さぶられて、はっと私は目を覚ます。

 彼は私を抱きかかえて、棋獣の背から飛び降りた。棋獣の胴を軽く手で叩くと、棋獣は森の方に姿を消す。


「ここは・・。」

 彼の隣に立って、私は目の前の建物を見上げた。石造りの大きな建物だ。石の城のようだ。

「私が普段住んでいる館だ。ここ最近は荷物を取りに帰ってくるだけだったが。」

 彼は私を伴って、館の門の横に立っている守衛に声をかけた。

「今、帰った。」

「マクシミリアン様。おかえりなさいませ。」

 守衛が手に持っていた槍を構えて礼を取る。どうやら彼はこの館では身分が高いようだ。

 2人のやり取りを見ていた私に、彼は中に入るよう視線で促した。門横の扉から館の前庭に入る。守衛は私に視線は向けていたが、何か問いかけることはなかった。


 館の正門の前には、黒い執事服を着た男性が立って、私たちを待っていた。黄緑色の髪がとても目立っている。瞳の色は深い緑だった。

「イーヴォ。今、帰った。」

「マクシミリアン様。おかえりなさいませ。」

 先ほどの守衛と同様に、男性は私たちに向かって礼を取る。

「本日、叔父上にはお目にかかれそうか?」

「もちろんでございます。先触れを出しますか?」

「頼む。決心は定まったと伝えてほしい。あと、彼女もその場に立ち会わせたい。身支度を頼む。」

 私たちはイーヴォが開けた正門を潜り抜けた。

 マクシミリアンの言葉を受けて、イーヴォの視線が私に留まった。私もイーヴォを見返したが、彼の表情は特に変わらなかった。


「かしこまりました。ヴェルナー、クラーラ。」

 イーヴォの背後に、更に2人の魔人が現れる。一人は紫の髪に青い瞳の男性、もう一人はえんじ色の髪に黄色の瞳の女性だ。

「マクシミリアン様。この方のお名前は?」

 イーヴォの問いを受けて、マクシミリアンが顎に手を当てて考え込むようなしぐさをする。

「・・そういえば、お互い名乗っていなかったな。」

 彼の言葉に私は軽く頷く。私が彼に助けられてから数週間たっているが、お互いの名前を知らないままだ。


「私は先ほどから呼ばれているようにマクシミリアンという。」

「私の名はリシテキア。」

「リシテキア。」

 彼は私の名前を反復する。

「わかった。イーヴォ。リシテキアをよろしく頼む。こちらの身支度が終わったら、迎えに行かせるから、ヴェルナーに連絡をくれ。」

 彼は、紫の髪に青い瞳の男性を連れて、広間中央の階段を上がり、2階へと足を進めていく。イーヴォはマクシミリアンを見送った後、私に向き直った。


「リシテキア様。この後はクラーラにお任せください。」

「クラーラと申します。何かございましたら何なりとお申し付けくださいませ。」

 えんじ色の髪に黄色の瞳の女性が私に向かって礼を取った。

「よろしくお願いします。」

 引きつりそうな口元を抑えて、私はクラーラに向かってお辞儀をした。

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