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天仕の少女と魔人の少年(天女と魔年)、天仕の少年と人間の少女(天年と人女)の物語  作者: 説那


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天女と魔年 後編 第二十一話 別離

「・・マクシミリアン・・。」

 私の腕の中で、彼女の瞼が上がって、金色の瞳が私を見つめた。でも背中部分の彼女の服は、血による湿り気で重くなっているし、彼女の体温が急激に失われているのが、顔色からもわかる。

「リシテキア。早くユグレイティに戻ろう。傷の手当てをしないと。」

「・・カミュスヤーナは?」

「ここにいる。怪我もしていないし、泣いてもいない。」

 私の言葉に彼女は安堵したように息を吐いた。


「ごめんなさい。マクシミリアン。私、カミュスヤーナを助けたかったの。」

「助けたい?」

「このままだと、カミュスヤーナはエンダーンに食べさせてしまうのでしょう?」

 双子だから。と彼女は言葉を絞り出した。

「ああ、そのことか。エンダーンもカミュスヤーナも魔力量は問題がなかったから、捕食させる必要はない。」

「・・・なんだ。私の早合点か。その上、怪我までして・・。」

 彼女は自嘲気味に笑う。でも、今はこのように話をしている状況ではない。私は彼女を急かす。


「リシテキア。ここでこのまま話しているのは身体に悪い。早く戻るぞ。」

「・・待って、マクシミリアン。もう少し話をさせて。」

 リシテキアは私の服の前をつかみ願う。

「だが、このままでは君が。」

「マクシミリアン。私は貴方と離れていた時、医学を学んでいたの。自分がどういう状況かくらい、分かっているわ。私は、最後に貴方と話がしたいの。」

 私は喉や口の中が乾くのを感じた。彼女はまるで私を安心させるかのように笑ってみせる。


「カミュスヤーナがエンダーンに食べられてしまうなら、・・その前にこの子をここで誰かに預けてしまおうと思ったの。でも、預けられる先を探す前に、クレーメンスに狙われてしまって・・。」

「クレーメンス?先ほどの男か?」

「クレーメンスは、天仕の純血統種・・。私を襲撃した人物の一人。・・それで、私はあちらにいる時に、彼らに奉仕させられた。そうしないと、家族に手を出すと言われたから・・。」

 私は奥の長剣が転がっている大地に目を向ける。自害させた後、彼女がその姿を見ないで済むよう青い炎で焼き尽くしてやったら、なぜか長剣だけ残ってしまった。忌々しい。


 つまり、奴は彼女が自分を軽んじる原因になった者ということ。初花は奪われていないことは分かっているが、それに準ずる行為はさせられたのだろう。

 自害など軽すぎたな。私に死を乞うほど拷問してやればよかった。でも、あの時は彼女を害した罪を贖わせようとしか考えられなかった。


「クレーメンスは、私が純血統種ではないから、天仕の王の供物として捧げようと命を狙っていたの。私、そのことを知らなくて。知っていたら、貴方から離れることはなかったのに。」

「・・・。」


「リシテキア。すべて説明するのは力を使うだろう。記憶を読み取ってやろう。」

「いいの?」

「ほかにも話したいことがあるのであろう?私の目を見てくれ。」

 彼女が笑って頷いたので、私は彼女の金色の瞳を見つめながら、頭の上に手を置いた。

 魔道具を介していないので、鮮明ではないが、断片的に彼女の記憶が私の頭の中に流れ込んでくる。私は軽く息を吐いて、彼女の頭を撫でた。


「・・どちらにしても、エンダーンはカミュスヤーナを害する。一緒に育てるのは難しいと思っていた。他に預けるのはよい判断だと思う。」

「私がだめなのは、その考えを貴方に相談せずに自分でやろうとしたこと・・。」

「それは・・。」

 私が相談する機会を与えなかったからだ。私は彼女から私との別れを切り出されるかもしれないと怯えた。だから、彼女から話をしようと言われても、それを意図的に避けた。

 だが、きっと私は間違っていたのだろう。だから、彼女は私の腕の中でこんなことになっている。


「マクシミリアン。カミュスヤーナをお願い・・。誰かに預けて。もちろん、エンダーンのことも・・。」

「これから私と君と二人で、子どもたちを守っていこう。リシテキア。だから、そんなことは言うな。」

「マクシミリアン。私に顔を近づけて・・。貴方の赤い瞳を私に見せて・・。」

 視界がぼやけて、よく見えなくなってきたわ。と、彼女は涙で金色の瞳をにじませながら、つぶやく。私は彼女の涙を手で拭いながら、彼女の方に身をかがめる。彼女の金色の瞳の焦点は、私の方に向けられているように見えるが、どこにもあっていなかった。


「私は貴方の側にずっといると誓ったのに、守れなくてごめんなさい。」

「それを言うなら、私は君を全ての害悪から守ると誓ったのに、守れなかった。」

 私の言葉に、彼女は首を横に振る。

「私はずっと貴方に守ってもらった。貴方は私の望みを叶えてくれた。私に居場所をくれたし、可愛い子どもたちもくれた。今、カミュスヤーナと別れることになっても、いつかは家族4人で楽しく幸せに暮らしていけると思ってた。」

「リシテキア。」

 彼女の頬に私の涙が落ちた。彼女は目を細めて微笑む。


「私は幸せだった・・。貴方を愛しているわ。マクシミリアン・・。」

「私も君を愛している。だから、だから、私を置いていかないでくれ。」

 ずっと側にいると誓ったではないか。なぜ、病で死にそうになっていた私が助かり、それを助けてくれた君が先に死ぬのか。

 彼女の頬の上で、私と彼女の涙が混ざり合う。彼女は更にほころぶような笑みを私に向けた。

「私を好きになってくれてありがとう。」

「リシテキア。」

 彼女の瞼が閉じて、腕や膝にかかる重さが強くなる。

 彼女の口の前に手をかざし、その後首筋や手首に手をやったが、息も脈も取れない。


「ああ・・リシテキア。」

 私は胸の中にリシテキアを抱え込んだ。背中に当てた手のひらがぐっと外に押し返される。

 彼女の背中に目をやると、外套が大きく膨らんでいる。手を滑らせその輪郭を確認する。

 羽か。君の魂は行ってしまったのだな。

 普段は身体の中に収めてある翼が顕現していた。つまり、彼女の魔力も翼を収めておけるほど残っていないということだ。間もなく、魔力も尽きるだろう。

 私も魔王であるとはいえ、死者を蘇生させることはできない。


 自分の顔と彼女の顔を袖で拭う。もちろん、彼女の顔はピクリとも動かない。ただ見つめていれば、彼女は眠っているかのようだった。

 彼女の顔に自分の顔を近づけた。彼女の唇に、自分のそれを重ねる。

 まだ、柔らかかったが、すでに体温は失われて冷たい。彼女の命が尽きてしまったことを思い知らされて、再度目尻に涙がにじみそうになる。


 その時、後ろから声がかけられた。

「こちらはエステンダッシュ領、境界転移陣を守る騎士の者だ。大事ないか?」

 私は彼女から顔を離し、声のする方を振り返る。

 水色の髪、彼女と同じ金色の瞳。彼女の弟であるアルフォンス。これは縁というものか?

「アルフォンスか。久しいな。」

 私は平然と見えるよう取り繕って、口の端を上げてみせた。

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