天女と魔年 後編 第十三話 齟齬(そご)
頭の中に、彼女の笑顔がちらつく。
このところ、彼女は笑わなくなった。いや、薄い笑みは浮かべる。無理して笑っているのだ。
毎日、二人の子の面倒を、侍女と交代で見ている彼女は、すっかり元気をなくしてしまった。
私は、彼女が束の間寝ている時を見計らって、彼女に会いに行き、彼女の頬を撫でる。彼女は全く目覚めない。彼女を起こすのは、子どもたちの泣き声だけだ。
今の彼女に声をかけようにも、すぐ彼女の意識は子どもたちに向かう。
それが当たり前のことだとは分かっている。でも、私は彼女に話しかけづらくなってしまった。その雰囲気にのまれて、彼女に会うことも控えるようになってしまった。
でも、顔を見ずにいることもできなくて、女々しく彼女が寝ている時に、顔だけ確認しに来ている。
隣でカミュスヤーナが大きな赤い瞳を開いて、私を見ている。泣きもせず。
私はカミュスヤーナを抱き上げた。身体をゆらゆらと揺らしてやると、すぐにうとうとし始める。
エンダーンとカミュスヤーナの保有魔力量を調べたところ、共に一般的な魔人よりも魔力量が多かった。私とリシテキアの子どもだったので、当然と言えば当然だが、これであれば、片方が片方を捕食する必要もなく生きられるだろう。捕食してしまうと、逆に身体が保たれなくなりそうだ。
だが、思った以上に双子の世話は大変だった。リシテキアの負担を減らすために、乳母を探して、方々を回っているが、なかなか適任者がいない。そもそもこのユグレイティの地には魔人が少ないのだ。
女医と産婆を求めるのも大変だった。この分だと、乳母を見つけるのは難しいだろう。
カミュスヤーナがすっかり寝入ったので、彼女の隣に寝かせた。
カミュスヤーナは、エンダーンに比べて、本当におとなしい。
エンダーンはカミュスヤーナといると、カミュスヤーナを叩いたり引っかいたりして傷つける。嫌っているというより、好きでちょっかいを出し、それがエスカレートしているように見えるが、2人が一緒にいるとどうしてもそれが起こる。
そしてエンダーンは、無理やり眠らせないと寝ない。リシテキアと一緒にいると、彼女が休めないので、できるだけ侍女及び私が世話をするようにしている。
エンダーンとカミュスヤーナを同時に育てるのは無理かもしれない。すると、どちらかをだれか信頼する者に預け育ててもらうことを考えないとならない。預けるなら、より育てやすそうなカミュスヤーナだろう。彼女がそれを望んでくれればいいのだが。
もし、望んでくれたとしても、次は預け先の問題がある。この館内では意味がない。それにこの館には子育ての経験があるものがいないし、そもそも番になっている者もいない。
だからといって、ユグレイティの地以外だと、その魔力量の高さから、いいように利用される可能性もある。すると、魔人の住む地以外、人間の住む地に出すか。。天仕の住む地は、純血統種でないことから、迫害の原因にもなるので、無理だ。
子どもが大きくなれば、リシテキアと過ごす時間も取れるだろうか?また、以前のような状態に戻れるのだろうか?
・・私の側にいるだけ、まだましか。
そろそろ、エンダーンの元に戻らなくては。
私はリシテキアの頬を撫で、部屋を後にした。
私たちが完全にすれ違っていることを知らずに。




