天女と魔年 後編 第十二話 双子
どこからか赤子の泣き声がする。
私は閉じていた瞼をゆっくりと開いた。灰色の石造りの天井が見えた。いつの間にか眠り込んでしまっていたようだ。
隣に寝かされていた我が子が泣いていた。私は急いで母乳を与える。
今手元にいるのは私と同じプラチナブロンドの髪、マクシミリアンと同じ赤い瞳。先に生まれた弟で、名をカミュスヤーナという。
私が産んだのは双子だった。後から生まれた兄は、マクシミリアンと同じ金色の髪、私と同じ金色の瞳で、名をエンダーンといった。彼は今ここには居ない。たぶん、マクシミリアンに会いに行っているのだろう。
おしめを替えると、カミュスヤーナはすやすやと寝始めた。
カミュスヤーナは、必要なこと以外は本当に泣かない子だった。ぐずるということがない。基本はとても機嫌よく、その赤い眼で私を見ていることが多かった。赤子らしくないと言えば、らしくない。寝付きもよく、あやすとすぐにすやすやと眠りについた。
エンダーンは、とにかくなかなか寝ない子だった。あやしてもいつまでもぐずぐずしていて、機嫌のいいことの方が少ない。自然と、エンダーンを眠らせるのに、マクシミリアンの術に頼るようになり、それからはマクシミリアンがエンダーンの世話をしてくれることが多くなった。
子を産んでから、マクシミリアンが私の元に来ることは極端に減った。
私が双子の世話で余裕がないというのもある。
1週間に1度は、病の発症を抑えるため、私の血を摂取していく。その際子どもは侍女たちが見てくれている。でも、それほど長い時間は取れない。子を産む前の2人の濃密な時間は持てなくなっていた。
彼も、私のことを思ってか、そのことに意見を差し挟むことはなく、私が謝ると気にしなくていいと頭を撫でてくれる。
私は子どもへの授乳で、細切れにしか寝られなくなった。侍女を借り交代で、子どもたちの世話をしている。だが、侍女たちは出産を経験していない若い人(といっても私とそれほど年齢は変わらないかそれより上の人)たちばかりで、どの侍女もおっかなびっくり子どもたちに対応している。出産時には、いてくれた女医と産婆は、既にこの地を離れてしまった。やはり、女医と産婆を求める者は多くいるようで、求めに応じて出ていってしまったのだ。
マクシミリアンは子どもたちについて何も言わないが、私はふとした瞬間に、魔人にとって、双子が忌み子であることを考えている。
彼と読み漁った本について、あの日に話し合ったこと。
魔力量の多さと魔人としての強さが比例する世界では、双子の場合、一人がもつ魔力量を2つに分けてしまい、子一人一人が持つ魔力量が少なくなり、その子は魔人として弱い子になり、生きていけない。そのため、双子の弟は兄に捕食される。双子は一人になる。
つまり、カミュスヤーナはいつかエンダーンに捕食される。
魔王継承時に、マクシミリアンが前魔王オーレリアンを捕食したように。
ぐうっと押し寄せてきた吐き気を逃がそうと、カミュスヤーナを起こさないように咳をする。今は何もないけれど、エンダーンが私の元を離れるのが多いのも、それが関連しているのかもしれない。もしかしたら、マクシミリアンが何か考えているのかもしれない。でも、怖くて聞けない。私の考えを彼の声で肯定されたくない。私はもちろん、カミュスヤーナにも、エンダーンにも生きていてほしい。どちらかを犠牲にして、片方を生かすなど、考えたくもない。
マクシミリアンとの会話は、今は必要最低限となっていて、夜も一緒には寝ていない。このままではいけないと分かっている。だが、少しでも時間があるなら、私は休む時間に使いたいと思ってしまう。彼の心配する言葉に甘えてしまう。
なぜ、こうなってしまったのだろう。私は彼を助けたいと思って、ここに来ることにしたはずなのに。
彼が私を見つめる眼差しが、まだ優しく、冷たいものでないことだけが、救いと言える。
私が天仕であり、彼は魔人。考えが違うのが当然なのは分かっているけど、私はカミュスヤーナをエンダーンに捕食させたくはなかった。どちらも大切な私の子どもだ。失いたくはない。
出産に伴って失った体力はほとんど戻った。産後の悪露も無くなって大分経つ。
そろそろ、私は決断しなくてはならないようだ。
エンダーンがカミュスヤーナを捕食するのを黙って見逃すか、カミュスヤーナをこことは別のところへ逃がすのかを。




