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天女と魔年 前編 第五話 回復

 それから、彼は私を食べようとはせず、生かし続けた。

 そして、私は今もなお生きている。

 彼が用意してくれた食べ物と飲み物を摂取し、ほとんどの時間を洞穴の中で寝て過ごした。健康に悪いだろうと言って、たまに外に出て木の根元に寝ころんで日光浴をする。

 彼は四六時中私の側にいた。実際魔獣が来た時には、威圧をして追い返していた。


 定期的に見返りとしての少量の血をねだられる。約束通り、それ以降は気を失うほど摂取されることはなかった。彼の歯が首筋に当たる度、私は彼の餌なのだと感じる。だが、血を摂取する時に触れる手や腕は優しく温かくて、私はその落差に困惑する。

 その時、彼の目に浮かぶのは、酩酊と歓喜だ。ただ美酒に酔いしれているだけ。別に私のことを見ているわけではない。


 私を殺そうとすれば、彼には簡単にできる。彼が私を生かす理由は、まったくもって分からなかった。私自身を食べるよりは、血を摂取する方が彼にとっては大事なのかもしれないが、そのために私の看病をするほうが、よっぽど大変だと思う。

 私が回復したら、一体どうするつもりだろう。

 多分解放はされないだろう。もっとも解放されたところで、天仕の住む地に帰る方法が分からないから、その方法を探し当てる前に死ぬかもしれない。


 かなりたって私の傷は回復し、翼を使って羽ばたけるまでになった。

「ほとんど回復したな。帰り道が分かれば、飛んで帰ることは可能だと思う。」

 今後どうする?と彼は私に問いかける。

 できれば家族の元に帰りたい。

 でも行き先が分からないし、あちこち飛び回っても、やがて力尽きる。

 今回は彼が助けてくれたから命はあるが、力尽きて辿り着いた先でも同じとは限らない。

 どちらかというと、今より状況は悪くなるだろう。


「望んでいいなら、私は家に帰りたい。」

「・・・まぁ、そうであろうな。だがはっきり言うが、ここでは、そなたの帰り道を見つけることはかなり困難だと思う。実際に知っている者がいたとしたら、その者が仲間を連れて、天仕の住む地に行って、たくさん餌として捕まえてくるであろうな。そして、他の者には公表しない。極上の餌場を他者には伝えないだろう。」

 彼は、私の顔を見て淡々と告げた。


「実際、そなたが居る時に、大量の天仕が行方不明になったり、虐殺されたりしたことはあったのか?」

「聞いたことがないわ。」

「なら、魔人の中で知っている者はいないのであろう。・・そなたが帰るのに協力してやってもいい。」

 彼は私の顔を見ると、苦々しく顔をしかめた。

「私は、そなたを食べない理由があると言っただろう?そのために他にも試したいことがいろいろあるのだ。私の実験に付き合ってくれるなら、そなたが帰る方法を見つけることへの協力と、その間のそなたの居場所や食事などを提供してやろう。ここにいる間は、私の言うことに従ってもらう必要があるが。」


「少しでも可能性があるなら、それでもいいわ。」

「かなり低い可能性だがな。背中の羽は見えないようにできるか?」

 彼の言葉を受けて、私は羽を身体の中に収めた。羽は飛ぶ時以外は邪魔だし、すぐ天仕だと分かってしまうので、身体の中に収められるようになっている。微量の魔力を消費するが、傷が回復している今は、特に問題にはならない。

 彼は荷物の中から外套を取り出して、私に差し出した。

「これを念のためかぶってくれ。では行くぞ。」

 私の手を引いて、彼は今まで私たちがいた洞窟を後にした。

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