天女と魔年 後編 第十一話 営み
ユグレイティの地を治める魔王マクシミリアンと結婚し、身も心も結ばれたものの、本邸に戻ってからの私の日常は、以前この地に滞在していた時と大きく変わりなかった。この地は元々住んでいる魔人の数が少ないらしい。結婚も特に式などは行うことはなく、館に滞在している皆に祝福してもらったくらいである。魔人は結婚すること自体まれだが、私はここに来た当初から、マクシミリアンと結婚することになっていたから、特に反対もなく受け入れられた。魔王に異議を唱える者が実際いるとは思えなかったが。
彼と過ごす時間は濃密になった。あまりに濃密すぎて、昼なのか夜なのか分からなくなったくらいだ。彼は休みの日も私の側から片時も離れなかった。私の囲い具合は、結婚前より大分ひどくなった。彼は傍から見てよくわかるように、私を可愛がり、甘やかした。
また、2人で一緒に寝るようにしたおかげで、お互いの不眠も解消された。ただ、休みの日の前は、性の営みに夜の時間が使われ、次の日は2人して昼近くまで寝台の上で寝ていることも多かった。
そのような日々を過ごして、数月が過ぎた頃、私は体調を崩した。とにかく気分が悪かった。私はマクシミリアンにお願いをして、復調するまで寝台で休むことにした。
夜眠る時に、マクシミリアンが心配そうに私の顔を見つめて言った。
「体調の悪い日が続いているな。」
額に手を当てられ、微熱があるか?と問いかけられる。彼の手はとてもひんやりとしていて、今の私にとってはとても気持ちが良かった。
「マクシミリアン。」
私は乾く唇を湿らせて、彼に呼び掛ける。彼が私の方に顔を寄せる。
「子ができたかも。」
私の言葉に彼は目を見開いた。
「誠か。」
「月のものがしばらく来てないから。女医を手配してくれると。」
私が最後まで言葉を紡ぐ前に、彼が私の身体を抱きしめた。背中を優しく撫でられて、私の身体から力が抜けていく。
「喜んでくれるかしら?」
心配だった。彼の近くには子どもがいない。ここに来てから、彼と同年代の魔人はいなかったのだ。また、館にいる者の中に子を持っている者がいなかった。未知数の存在が側にできることが、彼にとって重荷にならないとも限らなかった。
彼は私の顔を覗き込んだ。私は無言で、彼の答えを待った。
「無論。」
彼は破顔した。心から喜んでいる様子に、私は心の内で大きく息を吐く。
「ありがとう。リシテキア。」
「きっと、私たちの子だから、可愛いわ。」
そうだな。と言って、彼は私の頭を撫でてくれた。彼は私が欲しい時に、欲しい言葉をくれる。私は彼の愛情を享受するかのように目を伏せる。
その後、彼は私のために女医を探してきてくれ、女医の診察の結果、私はやはり子を授かったことが分かった。それを受けて、彼は産婆も探してくれた。女医も産婆も、共に魔人の女性だったが、魔人だろうが天仕だろうが、出産について違いがあるわけではない。同じ人型の種族なのだから。
彼は私が子どもを授かったことを喜んでくれたが、同時にかなり戸惑っている様子だった。
どんなに魔王として力のある彼であっても、彼の人生の中で自分以外の子どもと接したこともなければ、身の回りで出産もなく、出産に対する知識はほとんどなかった。私はもともと医学を学んできていたから、その辺りは分かっていたが、それでも知識として得るのと、自分で経験するのには大きな差があった。私たちは、ともに手探りでこの出産に立ち向かうことになった。
お腹が大きくなっていく私の周りで、彼が困ったような顔をしていることが多くなった。私は、彼にそばにいてくれるだけでいいと言い、それ以外はいつも通り接してくれるよう伝えた。彼は、私を抱きしめてくれて、大きくなるお腹を優しく撫でてくれた。
私としては、それで十分だった。彼の愛情は分かったし、何より女医と産婆を見つけてきてくれたことだけでも、私には大きな助けとなったのだ。
もちろん、私はこのささやかな幸せのある生活がずっと続くと思っていた。今まで居場所がなかった私が、やっとつかんだ幸せだから。




