天女と魔年 後編 第十話 初朝(はつあさ)
目の前で、苦々しい顔をして、座っている彼を、私は苦笑して見つめる。
ここは、2人で使う寝室として、用意された部屋だ。
設置されている寝台も、2人で使うことを想定されているのか、とても広い。多分、普段過ごしている館の私の自室として、割り当てられていた部屋の寝台よりも大きいだろう。
考えてみると、あの寝台は2人で使うのには狭かったのかもしれない。
部屋にある窓からは、燦燦と陽光が降り注いでいる。
日が出てからかなり時間は経っているのだろう。今日もとてもいい天気だった。
私たちは寝室に設置された広い寝台の上に座って、向かい合っているのだ。
久しぶりに2人で寝たら、お互いのぬくもりからかとてもぐっすりと眠れた。彼のほうが眠りにつくのは早かったはず。私の頭の上から早々に寝息が聞こえたのを覚えているから。
では、なぜ彼が苦々しい顔をしているのか。
それは、彼が私に何もせずに寝てしまったことを後悔しているからだ。
私は、彼の頬に手を当てた。顔色は昨日よりもよくなっている。やはり、純粋に寝不足で顔色が悪かったのだろう。
「マクシミリアン。私たちはここに1週間いるのでしょう?夜はまだ5回は来るわ。」
「・・せっかく君と結婚した初めての夜だったのに。」
彼がぽつりとつぶやくのに、私は吹き出しそうになる。
昨日、彼の求婚を受けた時に、私は彼に念押しされた。
「君は私の求婚を受けたのだから、私たちは結婚したということでいいのだな?」
「結婚は誰かに許可を得るわけでも、承認を受けるわけでもないし。お互いの同意があれば、成立するのではないかしら?」
私の答えを得て、彼はとても魔王らしい笑みを浮かべていた。私も自分で出した条件だから、彼が言いたいことは分かっていた。でも、性欲より睡眠欲のほうが、私も彼も共に勝ってしまった。
それに本邸に戻れば、きっとまた夜は2人で寝るようになるだろうから、機会はそれこそ毎日のようにあるのだ。私は今から戦々恐々としている。
彼は頬に当てられている私の手に被せるように、自分の手を重ねた。そして、また大きく息を吐く。
「なんなら、今から君を抱いてもいいのだが。」
「こんな明るいところで?」
外から入り込む日光は部屋の隅々まで照らしている。私自身も見たことがないところを、この明るい中、彼に見られるのはさすがに恥ずかしい。
恥ずかしいと抗議しようとしたら、その前に寝台に押し倒された。
「マクシミリアン!」
「私たちはここに1週間いるのだから、時間はあるな。」
彼は私が先ほど言った言葉を、一部繰り返した。
彼の身体を押しのけようとしたけれど、まったくびくともしなかった。彼は私の首筋に顔をうずめる。彼が息を吸い込むのが分かって、私は身体を強張らせた。ピリッとした痛みと何かを吸う音がする。
血を飲まれている。
そうしないうちに彼は顔を上げると、自分の唇を、舌を出して舐めとった。
「今日の夜まで待とう。それまではこれで許しておいてやる。」
彼は私を見て、艶やかな笑みを浮かべる。
そういえば、前回私の魔力を摂取してから、1週間くらいたっているような気がする。予防薬として、私の血を飲んだらしい。
明るいところで服を剝かれなくてよかった。彼は私の手を取って寝台の外に出ようとする。
「朝食にしよう。その後、何をするか考えておいてくれ。」
彼は私を振り返って、ほほ笑んだ。




