天女と魔年 後編 第九話 求婚2
私たちは、その白亜の館と周りの景色を満喫した。
魔人にも魔獣にも会うことはなかったが、聞くとこの辺りを覆うように、広範囲結界を張っているらしい。その結界は自然とこの個所に足が向かなくなる性質を持つそうだ。便利だとは思うが、きっとそれを維持するのには相当な魔力を消費するはず。特に苦にもせずそれを行ってしまう彼は、相変わらず規格外だ。
夜の食事を終えた後、私たちは再度砂浜に降りることにした。
その時に来ていく服を指定され、それに着替えていくように言われた。服を着替えたり、身支度を整えたりするのに、私たちは館でそれぞれ自室を持っている。
自室で、指定された服を広げてみると、白くて裾丈の長いワンピースだった。ところどころ金糸の刺繍が入っている。
服と共に入っていた紙切れを見る。そこには、その服を着る際の注意点や、どの装飾品と合わせるのかなどが事細かく書かれている。すべて同じ筆跡だから、多分書いたのは侍女のクラーラだろう。ここには私たち2人以外は来ていない。
私は紙切れに書かれた内容通りに、服を着て装飾品を付け、髪をまとめた。化粧品も用意されていたので、軽く化粧もする。以前、前魔王オーレリアンに謁見した時のことを思い出して、整えてみた。
砂浜が目の前に見える崖の上で、彼と待ち合わせていた。
待ち合わせた彼は、やはり以前に見た正装と思われる、黒の上下服を着ていた。袖や裾、襟には赤と金の糸で細かい刺繍が入っている。あの時と違うのは、腰に剣を差していないということだった。
彼は私を見ると嬉しそうに笑んで、私の身体を抱きしめた。
「マクシミリアン。苦しい。」
私の身体はおかしくなってしまったのだろうか?先ほどからまた動悸が激しくなっている。
「あまりに美しかったので、つい力を込めてしまった。」
彼の言葉に私の顔に熱が集まるのを感じる。彼は腕の力は緩めてくれたが、私の身体に回した腕はそのままだ。私は彼の腰に腕を回した後、下から彼の顔を見つめた。
私を見下ろしていた彼が目を見開き、ふっと視線を逸らす。耳を彼の胸に当てると、彼の動機も若干早くなっていた。彼も私と同じなのだと思うと、自然と私の口角が上がる。
彼は私から回していた腕を外し、背中と膝の裏に手を当てて、軽々と私の身体を横抱きにした。先ほど砂浜に降りる時にも、この体勢になったが、やはり慣れない。私は彼の首に腕を回した。
「降りるから、しっかりつかまって。」
私が彼の言葉に頷くと、彼は崖から身を躍らせた。ふわっとした落下感覚が続く。彼は私を抱えたまま、砂浜に降り立った。私を砂浜に下ろしてくれる。
「わぁ、綺麗。」
白い砂浜と海が、月の光を受けてキラキラと光っている。見上げると、今日は満月だった。
昼間の海も、夕方の海も綺麗だったが、神秘的な美しさは今の時間が一番だ。
「満月の時でないと、ここまで明るくはならない。幸運だったな。」
私は彼の方を振り返る。彼のことだから、今日は満月だとわかっていて、この予定を組んだのだろう。
「綺麗だろう?君の瞳のようだ。」
「マクシミリアン。貴方もしかして、この地に館を立てたのはこれが理由?」
「・・君がいなかった時に、度々ここにきて月を見ていた。あまりにも頻度が高かったから、それなら滞在できる館を作ってしまおうと思ったまで。」
彼は、私の目の前まで来ると、砂浜に膝をついた。
「マクシミリアン?」
「リシテキア。私と結婚してくれないか?君が私の側にいる限り、全ての害悪から君を守ろう。私の持てうる全ての力を使って。」
彼が私に向かって手を差し伸べる。
やはり、彼は私の望みを叶えてくれる。私が思っていた以上に、理想的に。
私は瞳が涙でにじむのを感じながら、彼の手を取る。
「喜んで。私はずっとあなたの側にいるわ。マクシミリアン。」
彼は私の言葉を聞いて瞳を瞬かせたが、その後とても幸せそうに笑った。その笑顔に私は不覚にも見とれた。そして、その笑顔を引き出したのが私であることに歓喜する。
彼は立ち上がって、私の身体を自分の胸の中に抱き込んだ。彼の手が私の頤に当てられ、顔を上に向けさせられる。降りてくる唇を私は瞼を閉じて受け止めた。




