天女と魔年 後編 第七話 望み
病を患っていたマクシミリアンは、私の魔力を摂取したことによって、症状は治まった。その後のやり取りも、別れる前と特に変わらなかった。
結局、マクシミリアンが防護室を出た後寝てしまい、気づいた時には、部屋に敷かれた寝具の上だった。私を抱きしめながら、こちらを見ている彼と目が合った。
「おはよう。リシテキア。」
「・・おはよう。貴方は休めたの?」
「これ以上ないほど、ぐっすりと眠れた。」
そういう彼の顔色はよくなっていて、嘘はついていないであろうことが分かった。彼が湯あみをしたせいか、腕の中はとても暖かく、石鹸らしきいいにおいがする。
私も湯あみをしたいなと思っていると、彼の手が私の背中を撫でた。
「背中の羽も消えた。寝て魔力も回復したようだな。もう、この部屋を出られるだろう。」
「それはよかった。」
私は、身体を起こそうとするが、彼の腕は私をがっちりと寝具に縫い留めていて離れない。
「動けないけど。。」
「リシテキア。」
彼は、私の顔の近くで、口の端を上げて笑う。
「君を私にくれないか?」
「それはどういう意味?」
「言葉通りだが。先ほども言ったはずだ。私たちが回復した後のことを心配すべきだと。」
幸いこの部屋は防音だ。いくら声を出しても外には漏れない。と彼は言葉を続ける。
「私はいいけど。。身体が痛くなりそうよ?」
私たちが寝ているのは、硬い床の上に敷かれた寝具の上だ。しかも暖かいとはいいがたい部屋。この後、汗をかくような行為をするとはいえ、風邪をひかないだろうか?
私の返答に、なぜか彼は戸惑ったような様子で、腕の力を緩めた。
「マクシミリアン?」
「慌てるか、嫌がるかされると思ったが、意外と冷静に返されてしまった。」
彼が横に視線をそらした。
「なぜ、嫌がると思うの?私たちは結婚するのでしょう?そういう行為もするものではないの?」
「君は分かっていないわけではなかったのだな。」
彼は軽く息を吐いた。
「もしかして、天仕でいう結婚と、魔人でいう結婚は、違うものなのかしら?」
「いや、同じだと思うが、魔人は、あまり結婚はせぬ。」
「しないの?」
「結婚する必要が特にない。別に結婚しなくても、子が欲しければ作ればいいし。相手と一緒にいたければいればいい。だが、君は私と結婚してもらう。」
「それはするものと思っていたけど。」
私が首を傾げると、彼はさらに言葉をつづけた。
「君は天仕だから、私と結婚して、他の魔人が付け入る隙を与えないようにしておきたい。他の魔人に分かりやすく、私の庇護下である旨を示すのに、結婚することが必要なのだ。」
「なら、結婚するのはあくまで形式的で、私とそういう行為はしないの?」
「それは・・。」
私を見つめる彼の瞳が揺れた。こういう時、彼は自分の気持ちを押し殺してしまう。私は別に彼がそれを望んでいないのならそれでいい。それに彼以外の人に抱かれるつもりは少しもなかった。
「私は、君が嫌がることはしたくない。」
「私が望んでいたら、してくれるのね?」
「リシテキア・・。」
彼が私の首筋に顔をうずめてきた。首筋に温かく柔らかい感触が当たる。
・・必要以上に彼のことをあおってしまったらしい。私が彼に言いたかったのはそういう意味ではなかったのだが。私は慌てて言葉を紡いだ。
「マクシミリアン。ちょっと待って。」
「どうした?」
彼が私の首筋から唇を外し、私の顔を見つめてくる。彼が中断されて怒っている様子はないことを見てとって、私は首を横に振った。
「今はまだだめ。私からも条件を付けさせて。」
「条件?」
「そう。つまらないことかもしれないけど。私はいくつか理想?めいたものがあるの。貴方なら叶えてくれるでしょう?マクシミリアン。」
彼は、私の言葉を聞いて、口の端を上げる。
「もちろん。君の望みはすべて叶えてみせよう。」




