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天仕の少女と魔人の少年(天女と魔年)、天仕の少年と人間の少女(天年と人女)の物語  作者: 説那


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天年と人女 前編 第十六話 転移陣

 私が院を卒業し、騎士団に入って、騎士として、各所の警備に当たるようになったころ、姉はようやく父の了承を取り付けた。

 姉が魔王である彼と別れてから2年半が経っていた。

 2年半たった今、彼が生きているのかすら、姉は確認していないという。

 そもそも、姉はすぐに彼の元に戻れるよう転移陣をもらっていた。その転移陣を使えば、父の了承が得られていない時でも、一時的にあちらに戻ることは可能だったのだ。

 だが、姉は今の今まで転移陣を使おうとはしなかった。


 姉の部屋の中央に広げられた大判の布。布には転移陣が記述されている。

 かなり複雑な文様で、魔人特有の記述があるためか、解読は不可能だった。

 姉の部屋は小さな棚以外は何も残っていなかった。寝台や机などは、他の部屋で使うようにと運び出してしまったのだ。もう姉はここに戻ってくる気がないことの表れでもあった。

 転移陣が描かれた布も、姉があちらに転移した後は、処分するよう言われているが、向こうの状況が分からない以上、もしかしたら姉が戻ってくるかもしれない。

 私はこの部屋は転移陣と共にそのままにしておくよう、家族には進言するつもりでいる。


 姉の持ち物はほとんどなかった。こんなに少なくていいのかと不思議に思うほどだ。

 実を言うと、私の身一つで十分なのだ。と彼女は笑った。

 結局、こちらで魔王である彼の持病を治す手段を探していたのに、その方法は見つからなかったらしい。仕方ないから、私が薬代わりになるわ。と笑っていたのが、印象的だった。

 姉は、こちらにいても常に彼のことを思い、彼の元に戻れるよう手を尽くしてきた。もう、会うことはないと思うが、姉には幸せになってほしいと思う。


「問題は向こうでも転移陣が敷かれているかどうかなんだけど。」

 姉はそう言って、床に敷いた転移陣に魔力を送り込んだ。転移陣が淡く光りだし、青い扉が現れる。

「扉が現れるということは、転移陣は敷かれていそうね。」

 姉は、つぶやいた後、扉を見つめて、口を引き結んだ。


「アルフォンス。」

 姉は私に呼び掛ける。

「貴方がいたおかげで、私はこちらで無事過ごすことができたわ。ありがとう。」

「いえ、私は何もしていません。」

「フェリシア様はまだ治りきっていない状態なのでしょう?」

「はい。」

 姉は、私が時間の工面がつかない時は、代わりにフェリシアの診察をしてくれていたが、このところは、フェリシアに会うことも少なくなっていた。この間、彼女と兄のエルキュールには、個別で別れを告げていたはずだ。

 以前よりは寝込むことが減ったとはいえ、フェリシアの魔力量はまだ人並みに戻っていない。命がまだ足りていないのだ。もう治療も何回を数えたのか。完治までの道のりが長く、治療している身であっても、歯がゆい状態だ。

「最後まで見ていてあげられないのは残念だけれど。後は貴方が守ってあげてね。」

「分かっています。」


 彼女は私を見て、いつもの屈託のない笑みを浮かべた。

「貴方が私の弟でよかった。もう会うことはないでしょう。貴方も元気でね。」

「姉様もお元気で。彼によろしくお伝えください。」

 私の言葉に彼女はわずかにその笑みを曇らせた。きっと、彼があちらで無事なのか、そもそも生きているのか、不安なのだろう。でも、その不安を払拭できるのは、私ではなく彼だ。私は姉を見送ることしかできないのだ。今回は。

 彼女は青い扉を開けて、部屋を出て行った。

 青い扉が消えて、転移陣の光も消える。

 涙は全くでなかった。

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