天年と人女 前編 第十四話 曖昧な告白
「アルフォンス様。よくよく考えてくださいませ。この治療方法は外部には出ませんが、外聞に差しさわりがありますよ。」
「それは、もちろん分かっている。」
「もし、治療が長期化して、貴方も私も適齢期を過ぎてしまったら、婚姻させられてしまうかもしれませんよ。他に相手がいないからって。」
「それはそれでいいのではないか?」
「アルフォンス様・・。自分のことですよ。もう少し考えてくださいませ。」
彼女は呆れ顔になった。その辺りは考えて、エルキュールには彼女との婚約の話をしたのだ。断られたが。
「アルフォンス様は自分への評価?が低くありませんか?私、前にも言いましたよね。アルフォンス様は院で噂になっている存在だと。その内、婚約の申し出がたくさん来ますよ。今はそれほど知られてなくても、近いうちに必ず。」
「まったく知らない者と婚約する気はない。」
「婚約は本人の意向というより、保護者の意向で決められるものです。最初から恋人同士が、親に申し出て婚約することも多いですが、婚約者と交友を深めるのは婚約後でもいいのですけど。」
「私は両親が言ってきても断るが。」
彼女の心配していることが、彼女の兄同様「私」であることは薄々分かったが、なぜ私のことを心配するのかが分からなかった。いい治療方法とはとても言えないが、自分の身体を治すためなのだから、使えるものは使えばいいと思うのに。
そして、私の答えは彼女の気持ちに添うものではなかったのだろう。
彼女が深く深く息を吐いた。そして、私のことをきっと下から睨みつけるように見つめた。
「では、はっきり申し上げます。私はアルフォンス様をお慕いしております。夢に見るくらいですし。だから、聞かされた治療方法では、私の心が耐えられません。」
「なぜ?」
彼女が頬を赤くして告げた言葉に、私は疑問で返した。
「好意を持った相手から治療目的とはいえ、何度も口づけされるのですよ!」
私は外套を広げて、彼女を隠し、彼女の口を塞ぐように、頭を胸の中に抱え込んだ。
「声が大きい。」
「も、申し訳ありません。」
彼女がか細い声で詫びを口にする。
「それにあまり興奮すると、倒れるぞ。」
「・・誰のせいだと・・。」
私の言葉に彼女は不満そうに頬を膨らませた。彼女の息が胸にかかるので、ほんのりと温かさを感じる。私は思い当たった彼女が素直に治療を受けたがらない理由を口にする。
「君が気にしているのは、私が治療目的とはいえ、好きでもない相手と口づけをすることか?」
「・・そうです。」
「私は他の者ならこの治療を引き受けようとは思わなかった。君だから引き受けたのだ。」
「・・それはどういう意味ですか?」
「私も君が好きなのだろうということだ。」
彼女は私の言葉に大きく青い瞳を見開いた。
「なぜ・・そんな曖昧な告白なのでしょう?」
ご自分のことですよね?と彼女は首を傾げる。
「私は人を好きになったことがないから。私が君に抱いている気持ちが好きというものなのかどうか分からない。」
好きな人は純血統種の餌食になるから、すでに標的となっていた家族以外には作らないようにしていた。
彼女との婚約の申し出をエルキュールにした時に、彼から彼女に好意があって、将来を添い遂げたいと言われた方がましと言われたが、私は彼女を好きだと言い切ることができなかった。だが、少なくとも彼女を助けたいと思ったし、彼女にその治療を施すしかないとわかったら、迷いなくしようと思った。彼女がそれを望むなら。
「君には生きていてほしいと思ったし、それを助けたいと思った。時折見せてくれる笑顔には心が揺れたし、先ほど慕ってくれていると言ってくれたのは素直に嬉しかった。」
私が言葉を紡ぐにつれ、彼女の顔が赤くなっていくのが分かる。これが慕っている者への反応なのかもしれぬ。私は赤くなった彼女の顔をしげしげと眺めた。すると、彼女の顔の赤みがさらに増した。
「それは・・好きと言ってもいいのではないですか?」
「でも、自分でもよく分かっていないのに、君を好きだと断言はできない。だから濁した。」
彼女はまた呆れたような顔になる。真面目というかなんというか。と口の中でもごもごとつぶやくのが聞こえた。
「こんな私の治療でも受け入れてもらえるだろうか?」
「仕方がありませんね。アルフォンス様が私に生きていてほしいと思ってくださっているのですから。」
なぜか上から目線で言葉を発する彼女に苦笑する。
「フェリシア。私は約束する。」
私は腕の中にいる彼女に、自分の顔を近づけた。
「私は必ずそなたの虚弱体質を治すと。もう辛い目に合わずに済むようにすると。」
少し動けば触れ合いそうなところにある青い瞳が、涙でにじんでいく。
「そして、君が治るまで側で見守っていよう。」
「アルフォンス様。それは婚約の言葉のようですよ。」
彼女は泣き笑いの顔で、私にしがみついた。




