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天仕の少女と魔人の少年(天女と魔年)、天仕の少年と人間の少女(天年と人女)の物語  作者: 説那


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天年と人女 前編 第十二話 治療方法

 私の前では、エルキュールが難しい顔をして座っている。手元には姉が作成した診断書があり、それを手で弄びながら、私の方をチラチラと見てくるのを、私は軽く息を吐いて見つめた。

 私はフェリシアの件について、彼を内密に呼び出した。これから行うことは彼の協力ないし理解が不可欠だからだ。かなり難しいことを要求していることは分かってはいるが、ここを通過しないと、話が先に進まない。


「話を整理してもいいか?まず、今のままだとフェリシアは長くは生きられない。原因は元々保有する魔力が極端に少ないから。魔力を使って生命活動は維持されているのに、その元となる活力源がないため、でいいか?」

「そうだな。」

 命だと説明が難しいと思われたので、魔力に置き替えて若干解釈を混ぜ込んで説明した。人間も魔力を持つことは周知の事実だ。


「治すためには魔力を増やすしかない。自然に魔力が増えることはないから、そのための治療薬を作る。その治療薬はただ飲むだけではだめで、口移しで与えないとならない。」

「それはなぜだ?」

「治療薬の効果を高めるためだ。魔法士であれば、治療薬に対して後付けでその効果を付与できるかもしれないが、私も姉も魔法士ではないので、治療薬を口に含んで、口内で効果を付与してから与える必要がある。」


 実は、天仕の能力を行使して、命や魔力など、生命の根幹にまつわるものを与えるには、身体の内部に近しい粘膜経由でないとできない。という制約がある。正確には、そうしないと、途方もない時間がかかるということだ。彼女の状態は今時点でもかなり悪い。あまり時間をかけられないことから、手を介しての方法はとれない。

 そして、何とかその方法をとるために、苦肉の策でそれらしい理由を付けているのだ。身体の内部に近しい粘膜で、一番合わせやすいのが口だ。実際は、口移しで命の一部を分け与えるので、口を合わせるもっともらしい理由として、治療薬を口移しで投与しなければならないとしている。治療薬自体は疑似薬だ。実際はただの回復薬でしかない。


「しかも、一度投与するだけでは終わらないのだろう?」

「彼女の状態がよくないので、何度かに分けて行わないと、彼女の負担が大きい。」

「薬を投与する本人もだろう?薬の効果を高めるのにも魔力の消費があるだろうし。薬の投与は君が行うのか?」

「・・姉はいつここを離れるかが分からない。後々私が行う羽目になるのなら、最初から私が行った方が、投与にも慣れるし、何かあった時の対処が容易だろうとの話だった。薬は私も作れるようにしておくので、足りなくなることはない。」


「それは・・君の負担が大きくないか?」

 エルキュールの言葉に、私は彼を見つめた。彼の表情は、妹を心配しているというより、私のことを心配しているようだった。今話しているのは、君の妹を救う方法なのだ。私のことなど気にしなくていいと思う。

 彼の様子を不思議に思いながらも、私は思ったまま答えを口にする。

「他の者ではできない治療方法なので、仕方がない。」

「自分の一生を左右するかもしれない件をそう淡々と。」

 エルキュールは軽く息を吐く。


「で、その治療を行うとして、フェリシアと婚約したいとの話だったが。」

「私が婚約をしたいのではなく、その治療を行うとなると、度々彼女に口づけなくてはならないから、彼女のことを考えると婚約しておいた方がいいのではないかという話だ。」

 私が早口で反論すると、彼は私を見てニヤッと笑った。

「医療行為とは言え、特定の異性と度々口づけしなくてはならない女性を、妻に迎えたい男はいないだろうな。」

「ならば、婚約の話を通してくれるか?」

「・・いや、それについては反論したい。」


 彼は困ったように言葉を続ける。

「フェリシアは今時点でも正直結婚は諦めているようだ。身体が虚弱だし、子どもも望めないと思っている。」

 それは・・本人もそう言っていた。

「だが、この治療が済めば・・。」

「虚弱体質は治るし、結婚もできるかもしれない。でもこの時点で君と婚約したら、婚姻するのは君だが。お互いをお互いで縛る行為だと分かっているか?まだ、フェリシアに好意があって、彼女を生かしたいから治療するし、添い遂げたいから婚約したいと言われた方がましだった。」

「・・・。」


 何も反論をしない私を見て、エルキュールは言葉を続けた。

「私はこの治療方法を外部に開示するつもりはない。父母にも治療する旨は伝えるが、その方法まで伝える必要性を感じない。だから、フェリシアに対して責任を感じる必要もない。フェリシアが治って、それでもフェリシアと婚約したいというなら、申し出てくれ。その時は考慮する。」

 ここまで言われてしまうと、私は婚約したいという申し出を取り下げるしかなかった。たぶん、彼は私や彼女の未来の選択肢を狭めたくないのだろうと思った。ここで、強固に彼女との婚約を望むのには、私の中の感情が伴っていない。

「・・わかった。」

 私は了承の返答を返すほかなかった。


「フェリシアにはこの方法を説明して同意を得ておけばいいか?」

「私が説明してもいいが・・。」

「いや、私が説明する。同意は得られると思う。フェリシアに希望を持たせてくれて、感謝する。」

「私は何も。」

「このままではなくなった可能性の高い妹の未来を、君はくれると言ったのだ。」

 エルキュールは私に向かって微笑んだ。

「治療の準備は進めておいてくれ。フェリシアと父母への説明が終わったら、連絡する。あと・・。」


 彼は席を立ち、私の胸を軽く片手で叩く。

「フェリシアが君のことを心配していた。近いうちにまた時間を取って会いたいとのことだった。」

 都合のいい日にちをあとで教えてくれ。と言って、彼はその場を後にする。

 私は彼を無言で見送ることしかできなかった。

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