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天仕の少女と魔人の少年(天女と魔年)、天仕の少年と人間の少女(天年と人女)の物語  作者: 説那


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天年と人女 前編 第十一話 命の分与

 フェリシアの自宅から家に帰って、食事もとらずに唯々眠り続けた。

 朝起きた時には気分はすっきりしていたのだが、魔力の提供がここまで自分に影響を与えるとは思っていなかった。それでも気を失ってしまうことなしに彼女の体温が戻るまで続けられたのは、ひとえに彼女を助けたいと思う気持ちに他ならなかった。

 私は院にも通常通り通うことができた。彼女はその後目覚めたが、数日休みをとると聞いている。エルキュールに聞いた限りでは、寝台で休んではいるものの、食事もとれており、体調には問題がないとのことで安堵した。


「アルフォンス。」

 自宅でリシテキアが絡んできた。私の部屋の寝台にうつ伏せに寝ころんでいる。

 きっと、フェリシアの件だろう。

「何ですか?それより、はしたないですよ。」

 リシテキアの服がめくれあがって、腹やふくらはぎの素肌が見えている。

「別にいいでしょ。姉弟だし。」

 気にしていない姉の様子に、私は軽く息を吐く。本当に彼はこんな姉でよかったのだろうか。


「フェリシア様の治療の件で、話があるのだけど。」

「わかりました。聞きます。」

 私は椅子を寝台の近くに持ってきて、腰を下ろした。彼女は私が聞く準備ができたのを見て、口を開く。

「まず、今までの診察の結果、エステル先生とも話した通り、彼女の魔力量が少ないから、それが影響して身体が思うように動かない状態にあることが分かった。この間、貴方が魔力を流した時に一時的に回復したように見えたのは、貴方の魔力によって、彼女の魔力の流れが強くなったためだった。魔力で魔力を補ったような感じかしら。そして、彼女が倒れたのは、魔力量が極端に低下したため。これはあの時話したわよね?」


「つまり、魔力を定期的に流したら、虚弱は治るのですか?」

 私の問いかけには、姉は首を横に振った。

「魔力を保持している器、つまり、命が少ないの。エステル先生との話であった魔力上限量を決めているもののこと。命を増やさないと、魔力の受け皿がないから、魔力を注ぎ込んだところで、保持できない。」

「命が少ない?」

 今までの知識の中に、命が少ないという事象はなかった。人間特有のものだろうか?

「人は産まれた時に、その人にあった命を持つの。その命が多ければ長生きするし、命が少なければ短命に終わる。彼女は命が少ないから、魔力量も少ない。だから・・。」

「・・フェリシアは死んでしまうのか?」

「そう、遠くない内に。」

 姉の言葉に愕然とする。


 姉は私の様子を見ながら、言葉を続けた。

「私たちは元々人間より長命だから、命が少ないという事象はないのですって。」

 私は黙って姉の話の続きを促す。

「父様にも、命を増やすことは、医術ではできないと言われたわ。まぁ、そうよね。それができたら皆もっと長寿になっててもおかしくないもの。でも、一つだけ方法がある。」

「それは?」

「天仕の与うるものの能力を使って、命の一部を分け与えること。」


「姉様は、最初からそれを考えて、あの時、天仕の言葉を口にしたのですか?」

 エステル先生の前で、彼女が天仕と口走ったのが気になってはいたのだ。

「あれは・・言ってみただけよ。天仕は長命だから、その命の一部を分け与えたところで、それほど影響はないはず。でも、寿命は若干短くなるでしょう。その方がここに居続けるのには逆に好都合かもね。フェリシア様も命を与えられたことにより、保有魔力量が増えるから、虚弱体質は治るはず。」

「はず、ばかりですね。」

「実際の症例がないから、推定になってしまうのよ。ちなみに命を与える方法は、この間の魔力を与える方法と一緒。しかも、魔力より与えるのが難しいから、一度で分け与えるのは無理。」

「手を介してではだめで、一気にもだめということですね?」

 姉は首肯する。私はその内容に頭を抱えたくなる。


「気になるのはそこなの?自分の命の一部を分けることに、抵抗感はないわけね。」

「くっ・・。」

 その能力を行使できるのが、私たち家族しかおらず、しかも姉は彼のために彼女に対して能力を行使したくないと言っている。私より年配の両親が彼女に対して能力を行使するとも思えない。できるのは私しかいないではないか。

 私の中に、治療をせずに、彼女を見殺しにする選択肢はなかった。


「父様の許可は取ったわよ。アルフォンスがそうしたいなら、してもいいって。でも、私たちが天仕と露見しないように配慮しろって。相変わらずの事なかれ主義よね。」

 私の移動も早く認めてくれればいいのに。と姉はぶつぶつ言っている。

「一回、あちらに行ってみては?思ったより長期化してますし。彼と話をした方がいいのでは?」

「だめよ。行ってしまえば、こちらに戻ってくる気がなくなるわ。私は彼と約束をしたもの。両親を説得してから戻るって。」

 姉が、自分の左手の薬指に嵌っている装身具の赤い宝石を撫でているのが、私から見てとれる。


 私たちは、天仕だ。

 既に存在が絶えてしまったと言われているが、実際は人間と住むところを異にしているだけである。

 だが、私たちは人間の血が混じっているため、血統を重んじる天仕の中では生きづらかった。私たち家族は、純血統種と呼ばれる他の天仕に迫害されていた。姉は純血統種の強襲を受けて、以前行方不明になっている。それを受けて、私たちはこの人間が住む地であるエステンダッシュ領に移住してきたのだ。

 姉は、行方不明になった時、命を救われた彼の元に戻るため、両親を説得している。許可を得次第、彼の元に向かうのだという。そう遠くない内にエステンダッシュ領を離れる理由が、それだ。

 そして、命を救った彼は、魔人という人型の種族の中で、最も力のある魔王だ。通常、天仕は魔人にとっての餌でしかないのに、なぜか食べずに自分の手元で生かしておいたのだ。姉にほだされたのか、力がある者の気まぐれか、よくわからない。


「命を分け与える方法に関しては、天仕であることが露見しないことも考慮して、私が相談に乗ってあげる。」

 姉はニッコリ笑って、私の顔を見つめた。

 私のことをどうにかする前に、自分のことを考えた方がいいと思う。そうは思うが、今回の内容をどうエルキュールとフェリシア本人に説明するかは、頭が痛かったから、姉の申し出に素直に従うことにした。

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