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天仕の少女と魔人の少年(天女と魔年)、天仕の少年と人間の少女(天年と人女)の物語  作者: 説那


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天年と人女 前編 第九話 力の行使

 私は部屋の入口の横に立って、遠くから彼女が寝ている寝台の方を伺っていた。

 寝台の横には、姉のリシテキアがいて、彼女の様子を診察している。

 通常であれば、女性の寝室に入ることなど、許されないことだろうが、フェリシアを送るのについてきてくれたリシテキアが、エルキュールの許可を得てくれている。

 リシテキアは彼女から離れると、私の方にまっすぐ歩み寄ってきた。


「彼女の容体は?」

「今は落ち着いているけど、このまま休んでいてもだめね。」

「なぜ?」

「フェリシア様が保有している魔力量が極端に少なくなっていて、このままだと身体の機能が維持できない。休んでいれば少しは回復するかもしれないけど、何もしないと、目が覚めるかどうかも・・ちょっと分からない。」

 ここまで症状が悪化しているとは思わなかった。

 思った以上にひどい状況に、私は唇を噛みしめた。


「で、お願いがあるのだけど、アルフォンス。」

「・・私にできることなら。」

「貴方の魔力を彼女に与えてほしいのだけど。フェリシア様が目覚めて、身体を動かせるようになるまで、魔力量を回復させたいの。」

「・・それは、この地では行わない取り決めになっていませんでしたか?」

 私の反論に、彼女は大きく息を吐いた。

「前にフェリシア様を診察した時に、既に力を使っているのでしょう?」


 姉の言葉に、私は口の端を引きつらせた。私は、確かに以前の診察時に、彼女に魔力を流している。

「1回行使したのだから、もう一度行使しても問題ないわよ。それに、父様の許可は得ているわ。」

「父上の?」

「父様にも、フェリシア様のことを話してみたのよ。向こうは専門だし。」

 私たちの父親は医師だ。私達より知識も経験も豊富だろう。

「詳しくはまた帰ってから話すけど、行使するのは構わないって。」

「本当に?」

「本当よ。」


「なら、私の魔力を与えるのは問題ありませんが。」

「そういってくれると思ったわ。でも、魔力は、前回と同じように手を介して与えるのではだめよ?」

 私は、姉の言葉に動きを止めた。

「どういうことですか。」

「貴方が診察時に与えた魔力よりも、与えなくてはならない魔力が多いから、手を介してだと時間がかかりすぎるもの。何日かかるか分からない。」

 その間ずっと彼女と手を握っているつもり?と姉は私を見つめて言う。

 姉が示唆している魔力を与える方法に思い至って、私は口を開いた。

「それは・・さすがにまずいのでは?本人の了承もなしに。」

「どうやったら本人の了承が取れるのか、教えてほしいわ。このままだと、目が覚めるかどうかも定かではないのに。」


「貴方が、フェリシア様が目覚めなくてもいいというのなら、別にいいけど。」

「・・それは、医師の言うことではないのではないですか?」

 私が言うと、姉は少し顔をしかめた。

「結局のところ、フェリシア様を助けるのは、私たちの持っている力を行使しない限り無理なのよ。医師でできる範囲を超えているの。そして、私は彼女のために力を行使するつもりはないわ。」

「それは・・彼のためですか?」

「そう、私は彼のために自分のものは温存しておきたいの。医師らしい行為ではないことは分かっているけど。だから、貴方が力を行使せず、フェリシア様が目覚めなかったとしても責めない。」


 私たちの持っている力は、人間には分からない。結果、フェリシアが目覚めなかったとしても、手を尽くしました。と言えば、多分皆諦めてくれるのだろう。

 でも、私は彼女を救える力があるのに、それを行使しなくていいのだろうか?父上の許可もあり、この場には当事者でもある姉と、意識のないフェリシアしかおらず、私が力を行使することを忌避する人もいない。私が力を行使するのには何の問題もない。


 私は口を引き結んだ。

「わかりました。やります。」

「・・ありがとう。」

 姉は分かっていたとばかりにニッコリと笑った。

「その間、寝台の方を見ないでいただけますか?あと、どのくらい魔力を与えればいいのでしょう?」

「この部屋から出ることはできないけど、奥の円卓で診察資料をまとめているわ。魔力は、彼女の手先が温かくなったと感じるようになるまでお願いね。結構、流さないと回復しないから、頑張ってね。」

 終わったら声かけてね。と姉はひらひらと手を振り、円卓の方に荷物を持って歩いて行った。できれば音も聞こえないところまで、離れてほしかったが、仕方がない。防音の結界が張れる魔道具でも持っていればよかったな。と思いつつ、私は寝台の方に足を進める。


 寝台に横たわった彼女の肌はとても青白い。上掛けの下にある手を探し出して、自分の方に引き寄せる。握りこんだ手は恐ろしく冷たかった。

 その冷たさは、彼女が死んでしまったと私に錯覚させる。実際には眠っているだけだ。そして、彼女を目覚めさせることができるのは、今となっては私だけ。

 このようなおとぎ話があったな、そういえば。


 私は彼女に自分の顔を近づけた。

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